第9話「人の恋路が気になる女」

「どうもー!」

平日の午後、管楽器の如く甲高い声が店内に鳴り響いた。零美にとっては聞きなれた声であり、聞きなれたフレーズだった。

「いらっしゃい。お久しぶりです」

背筋をピンと伸ばしてモデル立ちをする彼女を、零美は笑顔で出迎えた。父親が日本人、母親がフィリピン人のハーフである彼女は、パッチリと開いた大きな瞳が特徴的で、少し厚みのある唇が艶っぽさを演出している。

彼女の名前は斎藤摩耶、零美と同い年の三十歳だ。高校の同級生だった夫との間には、五歳になる男の子がいる。占いが好きな彼女は、知人の紹介で初めて来て以来、度々顔を出すようになった常連客だ。

以前から、書店で買った占い本などを使って、自分なりに友人たちの相性などを占ってきた彼女は、気になるカップルが見つかると、零美の意見を聞きに来るのだった。

彼女を席に案内すると、コーヒー好きの彼女のために自慢の豆を用意した。同い年で占い好き、更にはコーヒー好きだと言う共通点もあって、占い師と客と言う間柄を越え、今では気の合う友人の一人だと言える。

一方で、彼女にしてみれば占いを教えてもらう先生の立場であるので、尊敬の思いを込めて「零美先生」と呼び、零美は彼女を「摩耶さん」と呼んでいる。

「摩耶さん、大也君は幼稚園?」
「そう。バスは4時前に着くから、まだまだ時間はあるの」
「今日はどんな話?」
「あのね……」

彼女は、あらかじめ家で紙に書いてきた、気になるカップルの名前と生年月日を零美に手渡した。彼女は、独身の男女の話を聞きつけると、二人の相性を調べたくなる性分なのだ。もし上手くいきそうなら、二人をくっつけてしまおうと言う「お節介おばさん」なのである。

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「五十嵐美鈴って言う女の子の方は、私の中学の同級生なの。なかなか恋愛に奥手でね。良い子なんだけど、良い男性に巡り合えなくて、もう三十歳になっちゃって。本人よりも私の方が焦っているのよね」
「それもおかしな話ね。本人に結婚したいと言う願望があるのかしら?」
「もちろん結婚したいんだけど、こういうのは神様が巡り合わせてくれるって信じている子だからね。本当、困っちゃうの」

肩をすくめるジェスチャーが、日本人離れの顔によく似合う。零美は二人の命式を出し、プリントアウトして彼女の前に置いた。彼女は、命式の一つを指差しながら説明を始めた。

「この中森大悟君って男の子は、私の夫の職場の同僚なの。何回か家にも遊びに来たんだけど、とっても真面目な人なのよ。彼女にぴったりだと思うんだけどね」
「確かにこの人は真面目な人だわ。自我が強くて頑張り屋さん。自分の意見を強く持っていて、他人の言う事に左右されるような人じゃない、って感じね」
「それは、自己中心的とも言えるわよね」
「まあ……そうとも言うわね。ははは」

零美は、自我が強い人の表現方法にいつも悩む。真面目で頑張り屋、でも人の意見に左右される事はない、と遠回しに言いたかったのだが、彼女に「自己中心的」とスパッと言われてしまい、苦笑いをするしかなかった。

「一方の彼女の方はと言うと、自分と言うものがないと言うか、相手に合わせるタイプなの。彼のように自我が強い人は、一人でも生きていける強い人なんだけど、彼女のように自我が弱い人は、一人で生きていくのは難しいので、誰かに助けてもらわないといけない。そう考えると、彼との相性は良いかも知れないわ」
「へー、そうなんだー」

二人の相性が良いと言われた事が嬉しかったようだ。彼女は、喜怒哀楽が顔に出る、とても正直なタイプである。そういう所も、零美が彼女を好きになる要因の一つだった。

「彼女は水の生まれで、更には金の性質も強いから、ちょっと冷たい印象を与えてしまうかも知れないわね」
「確かに、そんなに愛想が良いとは言えないかも」
「そう。でも、愛情はたくさん持っているの。自分の事よりも人の事を心配する犠牲的精神も強いし」
「そうそう。悲しんでいる人がいたら一緒に悲しんだりして。言葉は少ないけど、人を思いやる暖かい心を持っていると思う」
「彼は孤独になりやすいタイプだから、彼女が一緒に居るとありがたいんじゃないかな」
「そう? じゃあ、二人の相性は良いんじゃない?」
「私としては良いと思う」
「良かったー!」

彼女は自分の事のように喜んだ。はっきり物を言うタイプだけれど、彼女の言葉の背後には愛情が込められているのだ。誤解する人も多いだろうが、零美はよくわかっている。

「私さ、今度この二人を引き合わせてみようと思うんだ」
「それは良いんじゃないかな。最初はお互い印象が良くないかも知れないけど、時間をかけて何度も会うようにすれば、少しずつ相手の良い所がわかってくると思う。それはあなたの腕の見せ所ね」
「任せて。お節介おばさんの本領発揮よ」

「はははは」と甲高い笑い声が店中に響いた。これまでにも彼女は、何組かのカップルを成立させている凄腕の「お節介おばさん」なのだ。今度彼女が来た時に、きっと良い報告が聞けるだろうと期待する零美だった。

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