二人、最後の日

 眠らない街、東京。クリスマスが近いせいか、普段よりも華やいだ感じに見える。家路を急ぐ会社員。家族が待つダイニングテーブルには、美味しい料理が並んでいるのだろう。一つのマフラーを二人で巻いているカップル。二人の周りの空気は、彼らの熱気で暖められているに違いない。

 この通りを歩くのは、何年ぶりになるのだろう。上京して、初めて夜空を見上げた時、東京にも星はあるんだなって思った。時々帰ってきたくなるこの街は、いつでも僕を温かく迎えてくれる。

 今、隣に寄り添っている彼女。僕の左腕にぴったりと密着している。初めてのデートはこの街だった。あれは七月の暑い日で、まずは定番の映画館。観たのは確か、007シリーズだった気がする。暑い暑いって、ハンカチで汗を拭っていたのが昨日のようだ。

 ふと現実に戻ると、吐く息が白い。あの日あんなに弾んだ二人の会話が嘘のように、今日の僕たちの口は重い。まさか、寒さが口をくっつけたのか? そんな単純な理由じゃない事は、自分がよく知ってるくせに、違う理由を探す愚かすぎる僕がいる。

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 あてもなく彷徨う二人。時間だけが通り過ぎていく。さっきまでの喧騒が嘘のように、この街から音が少しずつ消えていく。シャッターが降り、消されていく看板の灯り。僕は住宅街を抜け、彼女を思い出の公園へと誘(いざな)う。

 池の前に佇むベンチに彼女を座らせ、自動販売機に向かった。買うのはもちろん、僕のジョージアロング缶と、彼女の紅茶花伝。細くて長いのと、太くて丸い組み合わせ。ちょうど僕たちみたいだねと、いつか言おうと思いながら、最後の日まで言えなかった。

「お待たせ」
「ありがと」

 たった四文字の会話が終わり、二人はまた黙り込む。静かな夜の公園に、缶を開ける音だけが響く。ちょっとだけ口をつけ、左頬に当てる君。何度見たかわからないこの光景も、今夜が最後だと知っているのは、僕たち二人だけだ。

 彼女が空を見上げるのに釣られて、僕も夜空を見上げてみる。ああ、東京にも星はあるんだなと、久しぶりに言いたくなった。そしてしばらく見つめていると、いつか見た彼女の故郷の夜空が浮かんできた。まさに、今にも降り出しそうなほど、間近に見えたあの星空。もうすぐ彼女は、あの星空に会いに行く。僕は一緒に行けないけれど……。

「僕は……」

 上を向いたまま、思わず声が出た。

「え?」

 驚いた彼女の視線が、僕の左頬を突き刺してくる。

「君を……」

 次の言葉を待つ君の視線を感じる。だけど、僕は上を向いたまま固まってしまった。言葉を続けなければ、時が止まる気がしたんだ。もう少し、こうしていたい。僕の気持ちを察したのか、黙ったまま持たれかかる君。帰れない僕たちを残したまま、星たちは帰っていく。

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