あなたが好きな公園(改稿版)

「ごめん、待たせちゃって……」
「ううん、私も今来たところだから……」
「そう……じゃあ、行こうか……」

 小百合の手を取った瞬間、それが嘘だってわかった。晩秋の肌寒いこんな日に、浜風が吹くこんな所で待っていたから、小さな手が氷のように冷たくなっている。罪悪感に苛(さいな)まれた僕は「そうだ、ちょっと待ってて」と言い、近くの自動販売機に駆け寄った。

 少しでも彼女の体を温めてやりたい。お目当てはもちろん、彼女が好きな紅茶花伝のホット。僕は長年のジョージアファンで、しかもロング缶に目がない。程良く温まったそれを買って「はい」と手渡すと、「ありがとう」と言って右頬に当てた。僕はこの光景を、何度目にした事だろう……。

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 僕たちが出会ってもう三年。浮気っぽい男が、よく三年も持ったものだと自分でも感心する。こんな僕に、小百合はとてもよく尽くしてくれた。僕のわがままも、いつも黙って受け入れてくれた。今日だけは、彼女の好みを優先したい。そう思ってこの公園にやってきた。

 休日になれば、たくさんの人で賑わう公園。風が冷たい秋の寒空、しかも平日の夕方に来るのは僕たちぐらいだろう。目の前に広がる青い海が、まるで貸し切りの映画館のようで、小百合はこの場所が好きだった。

 今まで何組の男女が、ここで愛を語りあったのだろうか。彼らと同じように僕たちも、何度もここにやってきた。最初は友人カップルの初デートの付き添いだったのが、次に来た時は僕たちの初デートになった。小百合が、ここから見える海が好きだと言うので、デートと言えばここだった。でも今日は……。

 二人で来るのは今日が最後になる事を、彼女も何となくわかっているみたいだ。僕の気持ちが彼女から離れている事は、今更言葉にしなくても察しているようだった。

 僕はわがままで飽きっぽい。引っ越しも多い。最初は独り暮らしを始める時で、その次は、通うのが面倒だから大学の近くに引っ越した時。その次は、小百合と出会ってから。出来るだけ長く会っていたいから、彼女の家の近くに引っ越したんだけど。そして今度は……。

 今度は来年、大阪に引っ越す。大阪の会社に就職するから。だけど本当の目的は、新しい彼女が大阪に住んでいるから……。

 小百合が何か話しかけているのに、どうしてだろう、あまり耳に入ってこない。聞いているふりだけをして、僕は遠くの海を見ていた。どうしてこうなってしまったのか、過去を振り返って考えてみる。

 僕の横ではいつも、小百合が笑っていた。嬉しい時も悲しい時も、彼女は僕の隣にいたんだ。それが一番心地良くて、それが一番自然だった気がする。

 だけどいつの間にか、それが一番ではなくなったし、それが自然ではなくなった……。僕の横には、小百合ではない別の女性がいる事が増えた。

 浜風を浴びながら、僕たちは何も言わずに佇んでいた。いつもなら、僕のくだらない冗談に彼女が笑ってくれるのに、今日はそのくだらないジョークが出てこない。映画のような、気の利いた別れの台詞を言いたいのに、何故か頭に浮かんでこない……。

「実家の工場が借金を抱えたから、僕と一緒にいると君に迷惑がかかる。僕は大阪に帰って、父と一緒に借金を返していく事にした。僕よりもっと良い男を探して。君には幸せになってほしい」

 嘘をついたのは、彼女を傷つけたくないから。でも、彼女は僕の嘘に気づいていた。

「ごめんなさい、私がいけなかったの。あなたのせいじゃない!」

 彼女はそう言うと、大粒の涙を零(こぼ)しながら踵(きびず)を返して走り出した。僕らの距離はどんどんと遠ざかっていく。

 初めてここで出会った時、こんな日が来るなんて想像もしなかった。こんな日が来るなんて……。

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投稿日:2018年8月13日 更新日:

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