第一話「占い師の独白」

私は自称占い師だ。なぜ自称かと言えば、それが生業ではないからだ。本業は別にあるのだが、その仕事では足りないため、副業的に占いをしている。

私が占いに関心を持ち始めたのは中学生のときで、そのきっかけは、手相が他の人とは違う《ますかけ線》だったから。

《ますかけ線》とは、知能線と感情線が一緒になって横一文字の線になっている手相のことを言う。確率的に言えば、片手のますかけ線は百人に一人と言われ、両手のますかけ線は、千人に一人と言われている。

それほど珍しい手相なのだが、私は両手が《ますかけ線》で、私の父も両手が《ますかけ線》だった。強運の持ち主と言われるが、私の父や自分自身を見ても、あまりそうは思えない。そいうことから、占いに関心を持ちはじめたのだ。
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手相、姓名判断、タロットなど、一通りかじってみたが、一番しっくりきたのが「四柱推命しちゅうすいめい」だった。

私が四柱推命に出会ったのは、今から二十年前のこと。当時私は、人生のどん底にいた。結婚の約束をしていた人に突然、別れを告げられたからだ。「どうして私ではだめなのか?」と聞いたのだが、その人は黙って泣くだけだった。

骨身を削るほど愛していたので、その日から精神のバランスを崩すようになった。その後、その人は引越したのだが、転居先を特定して訪ねて行った。今思えばストーカーである。さらに引越したので、もうその先を調べるのはあきらめた。

そんなとき、私は占いの師匠に出会ったのだ。師匠から四柱推命をしてもらい、どうしてうまくいかなかったのか納得できた。それからしばらくして、師匠について勉強するようになったのである。

私の師匠は、できるだけ数をこなせと言った。それで、当時パソコン通信時代の掲示板に「無料鑑定をします」と出し、たくさんの依頼にメールで答えた。また、知人友人に声をかけ、占わせてもらって反応をみた。

師匠が言うには「お金をもらって鑑定しないと身にならない」とのこと。確かに、無料だと『どうせ無料だから、外れても文句言わないでしょ』みたいに思ってしまう。

最初、お金をもらって鑑定するときは本当にドキドキしたが、早めにそうしたから良かったと、今では思っている。

当初、『当てなくちゃ』という思いが強くて、出た結果そのものを全部、相手に伝えていた。嘘がつけない性分なので、良いことも悪いことも、隠さずに言った。それが正しいことだと、信じて疑わなかった。

しかし、ある婦人との出会いで、考え方が百八十度変わったのである。その人に出会わなければ、今の自分はなかっただろうと思う。

その方には、けっこうお世話になっていた。ある意味『恩人』という感覚があった。その方は母子家庭で、結婚してすぐに離婚されていた。占いが好きで、あちこちの占い師に観てもらっていたのだが、いつも「強すぎて女性としては幸せになれない」と言われていたそうだ。

あるとき、いつもの恩返しの意味で「占ってあげますよ」と言った。たしかに私が観ても、残念ながら女性としては男勝りなので、幸せになりにくいかなあと思えた。

でも、その方には本当に幸せになってほしかった。それで、根拠はないのに「三年後に良い人と結婚できますよ」と言ってしまったのだ。

その方はとても喜んでくれた。私は少し罪悪感を感じたのだが、そうなってほしいと、心から願っていたのだ。

翌日、その方に会うと、雰囲気が変わっていた。普段はメガネをかけてお化粧もあまりせず、髪もボサボサなのに、その日は髪もきれいにしてお化粧もばっちり、着ている服も華やかだった。あまり笑顔を見せない方だったのに、とてもニコニコされていたのだ。

その半年後、私は遠くに引っ越してしまい、その方のこともすっかり忘れていた。ところが、その三年後、突然その婦人からハガキが届いたのだ。

「あなたの言うとおり、良い方と出会って三年後に結婚しました」

そのハガキを受け取ったときは、心底びっくりした。あの占いのことなど、とうに忘れていたからだ。私はそのとき以来、「良いことだけを言おう」と心に決めた。

その婦人は、占いが好きで信じやすかった。だから、「あなたは幸せになれない」という占い師の言葉を信じ込んでいたのだ。

占い通りに生きている方はけっこう多い。逆に、占いに当てはまらない生き方をしている方もいる。

私の本業は別なのに、占いだけをしに来られる人がいる。その人は、少し自信がなくなってくるとやってくるのだ。その人が来られたら、私は自信を持って言うことがある。

「大丈夫、あなたの思い通りになりますから」

この言葉には、私の願望が入っている。

「言葉で運命は変えられる」という奇跡を、もう一度見たいのだ。

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