彷徨う記憶

 日曜日の朝早く、僕は懐かしい駅で降りた。すぐに君の姿を捜す。向かいのホームにも、君の姿はない。ここはかつて、僕らが出会った街。こんな所に君が来るはずもない事は知っているのに。忘れられない君との思い出を探す日々は、いつまで続くのだろう。

「だから、そうじゃないって」
「いやいや、絶対そうだって」
「だって、うちらの田舎じゃ、みんなこうするんだよ。これが昔からの正式なやり方なの」
「君のところはそうかも知れないけど、こっちの方が効率的だもん」
「違う違う。昔からこうやるって決まってるんだから」

 君は絶対に、自分の意見を曲げない。こう言ったらああ言う。生産性のない虚(むな)しい時間が過ぎるだけ。仕方ないから、僕が折れるしかない。

 お兄さんが三人、末っ子で年が離れた君は、大事に大事に育てられた。とても我儘(わがまま)で、男勝りな性格。顔が可愛いくなかったら、誰も相手にしないと思う。さすがの僕でも大変だった。

 でも、時折見せる優しさ、時折見せる女らしさ、時折見せる弱さ。嫌な面もあったけど、愛しさの方が勝(まさ)っていた。

 あの頃の僕は、自分に自信が持てなかった。コンプレックスの塊で、ネガティブな言葉が多かったと思う。

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「どうせ、だめだ」
「きっと、上手くいくわけない」
「ほらやっぱり、だめだった」

 楽天家の君は、根拠のない自信を持っていた。僕はそれを危なっかしく感じて、気をつけないと後で後悔するから言ったんだ。でも、そんな言葉は誰だって聞きたくない。今更ながらそう思う。

「彼女、あなたの事が好きなのよ」

 君の友人から聞いた、本当の気持ち。女性は言っている事と思っている事が違うって、誰かから聞いた事がある。そんなの学校で教えてくれなかった。男は単純だから、言われた言葉をそのまま信じてしまう。

 恐らく僕は、自信がなかったんだ。君の気持ちを受け入れる自信が、君を幸せにする自信がなかったんだ。でも、今なら言えると思う。君の事が好きだと。あの頃とは違う、変わった僕を君に見せたい。

 この街を彷徨(さまよ)いながら、君を捜している。君が立っていた踏切、君が立っていた交差点、君が座っていたカフェテラス。こんな所にいない事はよくわかっているはずなのに。

 夢遊病者のようにふらふらと歩きながら、君を捜している。路地裏の隅、ゴミ箱の中。そんな所にいるわけないのに。

 歩き疲れて座り込む僕を、夕陽が包み込んでいく。今なら言える、君が好きだと。

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