落とし穴遊び

 今年で十歳になるタクヤはお母さんが大好きだ。母一人子一人の母子家庭。家にはお金がなくて貧乏である事も承知している。スーパーで「何か一つ、お菓子を選びなさい」と言われた時も、一つ一つじっくり見比べ、出来るだけ安くて旨くて満足できそうなものを選ぶ。母親想いの健気(けなげ)な男の子である。

 最近のタクヤの流行(はやり)、それはテレビで見た落とし穴遊び。幼馴染みで仲良しのトオルとシンゴと一緒に、大人一人がすっぽりはまるくらいの大きな穴を庭に掘る。

 木の枝や草などでカモフラージュするのは、頭の良いシンゴのアイディアだった。そして、自分や母親が間違って落ちないように、普段は木の板を被(かぶ)せて置く。忘れっぽいタクヤのために、シンゴが用意してくれたものだ。

 ある日の事、一学期の終業式を終えて帰ってきたタクヤが一人で留守番をしていると、怖そうな男が家を訪ねてきて「お母さんはいるか?」と聞いてきた。

 タクヤはこの男を何度か見た事がある。「借りた金はいつ返してくれるんだ?」その度(たび)に泣いて謝る母の姿を見ていたので、こいつは悪い奴だと思っていた。

「悪い奴は懲(こ)らしめよう」

 そう思ったタクヤは「こっちだよ」と言って、男を庭へと連れ出した。「あの小屋にいる」と指差すと、男は口笛を吹きながら大股で歩いていった。

Sponsered Link



「わっ!」

 小さな声が聞こえたかと思うと、男の姿が見えなくなった。タクヤは急いでその地点に向かう。恐る恐る上から覗(のぞ)くと、落とし穴に落ちた男は頭を打って気を失っていた。

 「やった!」という達成感と同時に、「どうしよう」という不安感に襲われるタクヤ。そこへ車で買い物に出掛けていた母が帰ってきた。

 タクヤは母を呼びよせ、男の姿を見せた。母は驚きのあまり声を出しそうになるが、口を押さえて声を押し殺す。母はしばらく考えた後、にっこりと笑ってタクヤにこう言った。

「タクヤ悪いけど、家の中で待っててくれる? お母さんが良いと言うまで外に出ちゃだめだよ」

 根が素直なタクヤは、「うん」と答えて家の中に入った。その後しばらくして、母が家の中に入ってきた。はあはあと息を切らせ、汗まみれの顔には土がついている。母はシャワーを浴びた後、新しい服に着替えて出てきた。

「タクヤ、明日から夏休みだから、おばあちゃんちに遊びに行こうか?」
「うん、行きたい、行きたい!」
「じゃあ、今から準備して」

 夏休みの宿題やゲームなどをカバンに詰め込み、母と一緒に車に乗り込むタクヤ。ふと庭を見ると、落とし穴の上に被せる木の板が消えている。そして、心なしかいつもより、土の上に被せた草が盛り上がっているように見えた。

「あの男の人はどうしたの?」
「あの人はね、もういっちゃった」

 笑顔でそう答えると、母は車を走らせた。

『雨の中の女 神野 守 短編集 第1巻』amazonで販売中!

https://www.amazon.co.jp/dp/B07FYRKPL2/

Sponsered Link



投稿日:

執筆者:

Sponsered Link




以下からメールが送れます。↓
お気軽にメールをどうぞ!

こちらから無料メール鑑定申し込みができます。お気軽にどうぞ!
お申込みの際は、お名前・生年月日(生まれた時刻がわかる方は時刻も)・生まれた場所(東京都など)を明記してください。
ご自身のこと、または気になる方との相性などを簡単にポイント鑑定いたします。何が知りたいかを明記の上、上記までメールを送ってください。
更に詳しく知りたい方には有料メール鑑定(1件5000円・相性など2人の場合は7000円)も出来ます。

最新の記事をツイッターでお知らせしています
神野守(@kamino_mamoru)

ボイスブック・朗読ラジオチャンネル

海辺の少女

心霊鑑定士 加賀美零美のよろずお悩み解決所 1

僕は妹の美樹に振り回される

占い師の独白「霊眼が開く時」

切ない恋愛短編集「報われない恋」

世にも奇妙な短編集「断捨離キーホルダー」


  • 8現在の記事:
  • 119412総閲覧数:
  • 60今日の閲覧数:
  • 562昨日の閲覧数:
  • 2569先週の閲覧数:
  • 3585月別閲覧数:
  • 73206総訪問者数:
  • 20今日の訪問者数:
  • 111昨日の訪問者数:
  • 753先週の訪問者数:
  • 1144月別訪問者数:
  • 105一日あたりの訪問者数:
  • 1現在オンライン中の人数:
  • 2018年8月14日カウント開始日: