芥川龍之介 小説 独自解釈「尾形了斎覚え書」

引用:青空文庫 芥川龍之介「尾形了斎覚え書」

 芥川龍之介先生が書いた「尾形了斎覚え書」というお話について解説したいと思います。昔の言葉で書かれていて、朗読していても、これは皆さん、よくわからないだろうなと思いますので、自己流ながら解釈したものをお話したいと思います。

 これは、愛媛県の西の方にある村の、医者である尾形了斎が書いた、報告書みたいなものです。キリシタン宗門の宗徒達、と言いますのは、ヨーロッパからキリスト教を伝えにきた宣教師たちの事ですね。その宣教師が、邪法を行なっていたと。それがあまりに、非科学的で怪しかったと。その一部始終を、私は見ていましたから、幕府に報告しますね、という事なんです。

 今年の3月7日、百姓の与作の後家で、篠と言う女性が、尾形医師の自宅を訪ねてきました。彼女の娘で、当時9歳の里が、大病を患っているから診察してくれと、頼みにきたんです。夫の与作が亡くなって、再婚もせずに細々と暮らしていたんですね。夫が病死した事で、キリスト教徒になったようで、隣村の宣教師・ロドリゲのところに熱心に通っていました。

 その様子を見ながら、この村の人たちは「彼女はバテレンの妾になった」と噂して、批判していました。彼女の実家の父親・惣兵衛や、姉・弟たちが反対しても「デウス如来より有難いものはない」と言って信心を続けていたんですね。このデウス如来と言うのは、キリスト教の神様の事です。

 フランシスコ・ザビエルが日本に来た時、薩摩藩の島津貴久に、通訳のアンジロウが「この人はインドから来たお坊さんです」と紹介しました。インドは、仏教を開いたブッダが生まれた国です。ザビエルは「仏教の本場から来た偉いお坊さん」なんだと、みんな勘違いしました。

 そして、キリスト教の神様を「大日如来の大日」と訳したので、やっぱりザビエルは仏教のお坊さんなんだって、誤解してしまいます。薩摩のお坊さんたちは、ザビエルを大歓迎しました。ところが、よくよく話を聞いてみると、仏教と教義が違うという事がわかって、薩摩を追い出されます。その後ザビエルは、大日を「デウス」と、ラテン語で呼ぶようになったそうです。

 篠と娘の里は、朝夕、「クルス」と呼ぶ木で作った十字架に向かって祈っていました。夫の墓参りもせず、親類縁者とも絶縁している彼女たちを、村の人は「村から追い出そう」と言い出します。

 娘の病気を治してほしいと尾形医師に頼みますが、キリシタンの信仰ゆえに、診察する事は出来ないと断ります。篠は、医者は病気を治すのが役目でしょと言いますが、普段から彼女が、神仏を拝むのは悪魔に取りつかれているからだと、村の人たちに言っていたようなんですね。そんな、悪魔に取りつかれている私に病気を治してくれと言うのはおかしいでしょ、と尾形医師は言うんです。

 あなたが日頃信仰している、デウス如来、キリスト教の神様に治してもらいなさいよと。医はじん術なりと言っても、神仏の祟りがあれば怖いでしょって。いくら医者だからって、そう言いたくなる尾形医師の気持ちもよくわかりますよね。
まあそう言って断ったら、篠は諦めて帰っていったんです。

 その翌日、大雨の降る中、傘もささずに篠が訪ねてきました。どうか娘を助けてくださいと。そこで彼は、娘の命か、信仰か、どちらかを選びなさいと言います。そうすると篠は、土下座をしたり、手を合わせて拝み、おっしゃる事はごもっともですが、キリシタンの教えは、一度ころぶと、未来永劫、魂も肉体も滅んでしまうと言います。ころぶと言うのは、キリシタンの信仰を捨てるという意味ですね。

 だから、私を不憫だと思って助けてくださいと懇願します。尾形医師は彼女を哀れに思いますが、キリスト教を禁止している幕府の命令に背く事はとても出来ないと言います。すると、篠ははらはらと涙を流し、大雨の中、蚊の鳴くような声で、仕方がないので信仰を捨てますと言うんです。でも、口だけでは信用できないと彼に言われて、篠は懐から十字架を取り出して、静かに3度、踏んだのです。

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 その後、尾形医師は下男と共に、大雨の中、篠の家に急ぎました。狭い部屋に里は、枕を南にして寝ていました。熱にうなされながら、手で空中に十字を書いて、何度もハレルヤと言いながら、嬉しそうに微笑んでいたそうです。篠は、その様子を見ながら、泣く泣く、信仰を捨てないと診察してもらえないと、里に告げたのでしょう。

 そして、尾形医師が診てみると、傷寒の病いだっんですね。傷寒と言いますのは、高熱を伴う腸チフスのようですね。しかも、もう手遅れでどうしようもないと、尾形医師は判断します。篠は、娘の命のために信仰を捨てたのにと、狂ったように助けを求めます。でも、尾形医師は、もう人の力ではどうする事も出来ないと言って、煎じ薬を3つ置いて、帰ろうとするんですね。

 ところが、篠は彼にすがりついて離さない。そして篠はその場で倒れてしまいます。驚いた尾形医師は篠を介抱して、なんとか正気を取り戻します。篠は「浅はかな自分は、娘の命とデウス如来、両方を失ってしまった」と言って泣き続けますが、尾形医師は可哀想に思いながらも帰っていきます。

 そして、その日の未時、未時と言いますのは、午後2時の2時間前後なのですが、塚越弥左衛門さんのお母さんの容態を診察していた時、篠の娘が亡くなったと言う知らせを聞きます。そして、発狂した篠は、娘の亡骸を抱きながら、キリシタンの経文を唱えていたと。

 その翌日、村郷士の梁瀬金十郎さんの家に診察に行きます。郷士と言いますのは、武士の待遇を受けていた農民を言うようです。そして、馬に乗って向かっている途中で、篠の家に大勢の村人たちが集まっていて「バテレン」「キリシタン」などと騒いでいます。

 そのせいで馬が進めないので、尾形医師は何だろうと思って家の中を覗いてみました。すると、黒い服を着た、紅毛人一名、日本人三名が、手には十字架と、香炉のようなものを持って、ハレルヤハレルヤと唱えています。紅毛人と言いますのは、オランダ人の事ですね。

 そのオランダ人の足元には、髪を振り乱した篠が、娘の里を抱えたまま、うずくまっています。そして、尾形医師が驚いたのは、娘・里が、母につかまりながら、母の名前とハレルヤを、代わる代わる唱えていたのです。遠目から見ても、里の顔色は良く、元気そうに見えました。時々、母の首から手を放しては、香炉から立ち上る煙をつかまえるような仕草をしていたのです。

 尾形医師が村人に聴いたところ、オランダ人のロドリゲと、彼の助手を務めるイルマンが、隣村からやってきて、香炉を焚いたり、聖水を振り掛けたりしたら、発狂していた篠は元に戻り、里も生き返ったそうなのです。尾形医師によれば、一度亡くなっても、再び生き返る事は昔からよくあるとのことで、その場合の多くは、酒を飲んでそれが毒になった場合や、熱病を起こさせる山川の毒気にあたった場合らしいです。

 里のように、傷寒で亡くなった者が生き返ったのは、今まで聞いたことがないそうです。キリシタンの邪法による治療が功を奏したのかは、尾形医師も判断がつかないようです。

 その後、篠と娘の里は、バテレンのロドリゲと一緒に、隣村へ引っ越していきました。そして、慈元寺の住職、「日寛」によって、篠の家は焼き払われたそうです。これが、今回、尾形医師が見聞きした一部始終だと、報告しているわけですね。

 芥川先生の小説には、キリスト教に関する話が結構あります。当時の時代背景などがわかったりして面白いなと思います。また、芥川先生の小説解説をしたいと思いますので、今後もよろしくお願いします。

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