春名風花さんが語る「なぜ『いじめ』はなくならないのか?」

女優の春名風花さんが『いじめ』について語っています。

なぜ「いじめ」はなくならないのか?春名風花さんがたどり着いた結論

9/21(金) 11:00配信

 扉を開けると快活な声が響いた。「よろしくお願いします!」。声の主は、透明感のある少女。17歳の“はるかぜちゃん”だ。

 “はるかぜちゃん”とは愛称で、本名は春名風花(はるなふうか)さん。子役として活動をしながら、9歳でツイッターをはじめ、率直な鋭い意見でネットを賑わせてきた。

 特に有名なのは、2010年「青少年健全育成条例」の改正案が可決された際のツイートだろうか。当時まだ10歳だった彼女の「ぼくたちはいいまんがも、悪いまんがも、ちゃんと自分でえらべます(ω)」「都条例ぷんすか(ω)」という意見に反響が集まった。

 その彼女も、もう17歳。現在は女優・声優として活躍している。

 春名さんは8月20日、『いじめているきみへ』(朝日新聞出版)という絵本を出版した。彼女の考える、「いじめ」とは? そして彼女を支えてくれていたものとは? ツイッターで見る印象そのままに、まっすぐな大きな瞳で、インタビューに応じてくれた。

 (取材・文:夏生さえり/写真:飯本貴子)

誰でも「いじめ」の当事者になる

 絵本は、6年前の朝日新聞の特集「いじめと君」に掲載された「君、想像したことある?」というインタビュー記事が元になっている。この特集には多くの著名人が参加したが、春名さんの記事は特に大きな反響を呼んだ。

 絵本化のきっかけはツイッター。「あの記事が、絵本になっていたら欲しい」というツイートを、たまたま目にした。

 「いいアイディアだなと思って、すぐ朝日新聞さんに連絡しました。温度感のある絵を描くみきぐちさんをイラストレーターとして推薦して、素敵な絵本に仕上げていただきました」

 たくさん寄せられた声の中には、いじめられていた人だけでなく、いじめていた人からのコメントも多く届いたそうだ。

 「本当に色々なコメントがありました。中には、謝りたいと後悔している人もいました。読んでいると、完全な悪って本当になくて……。それに、すこし共感できてしまうところもあった。正直、気持ちがわかってしまうのが怖いなと思ったこともありました」

 言葉を詰まらせ、瞬きが遅くなる。彼女が丁寧に言葉を探しているのが伝わってくる。大きな瞳は机の中心を見つめ、揺れる。視線は過去をさまよい、目の前のわたしに再び向けられる。

 春名さんは以前、ツイッターで彼女をひどく批判してくる人に出会った。

 「でも、その人のツイートを見に行ったら、すごく凝ったお弁当を子どものために毎朝作っていることがわかったんです」

 ひどい言葉を投げかけてくる人でも、お弁当からは愛情を感じる。「本当に、絶対的な『悪人』っていない」。彼女は繰り返し言った。

 「今回、『いじめているきみへ』を出版すると、『いじめている人は買わないと思うよ』っていう声も多くもらいました。たしかにそうかもしれない。

 でも、人をいじめたくなる気持ちって、誰にでもあると思うんです。もしかしたら、これから人を傷つけたくなるかもしれない。学校でも、職場でも。

 そういう気持ちになったときに、お守りになるような本でありたいなと思いました。嫌いな人の、その向こうにいる大事な人のことも想像してほしいです」

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心ではなく「制度」を変える必要がある

 「子どもなんて、自分の意思に関係なく産まれてきて生きなくちゃいけない。だからこそ選択できない時期ってすごく幸せであるべきだと思うんですよね」

 大人になればある程度の自由を手にすることができる。職場は自分の責任で変えることもできるし、お金の使い道だって自由だ。

 でも、子どものうちは選択の自由がほとんどない。転校は1人では決められない。そのうえ義務教育期間は、学校をやめることも簡単にはできない。

 「大人は、『逃げろ』って簡単に言うけれど、逃げた後のことまでは考えてくれません。不登校になった後どうすればいいのか、その後どんな風に社会と関わっていけばいいのか。そこまで選択肢を提示して考えてくれる人は、ほとんどいません」

 ちくりと胸が痛んだ。中高生の自殺が最も多いのは、8月下旬から9月にかけて。今年も、ネットでは多くの大人たちが呼びかけた。「逃げていいんだよ」「学校に行かなくてもいいんだよ」。

 もちろん、救われた子もいたかもしれない。でも、その子たちは一体、その後どうするのだろう。逃げをすすめた大人は、彼らのその後まで想像できているだろうか。「逃げてもいい」。それだけでは足りない。

 「今って、いじめられて死んでしまう子もたくさんいる。それなのに、『人の心』に訴えかけるようなことしかしません。『いじめはダメ』とか『みんなで仲良くしましょう』とか。どうして制度を変えようとしないんだろう? って本当に不思議です」

 具体的に彼女は二つの「制度」を考えている。一つは「クラスをなくすこと」。もう一つは「授業で演劇をすること」。

 「まずはクラスをなくしたほうがいい。好きな友達とだって狭い空間で長い間一緒にいれば、ストレスがたまることもある。好きでもない人間をランダムに30人集めて教室という空間に閉じ込めていたら、いじめが起きてしまうのは容易に想像できます。

 今、ぼくは単位制の学校に通っていますが、ホームルームだけはクラスでやって、あとは選択した時間に選択した授業を受けているんです。そんな風にできないのかなって。

 協調性が必要なら、好きなことで繋がれる部活などを自分の意思で選択したらいい。無理やりクラスを作らなくても、必ず人はどこかで誰かと関わることになります。そこで、協調性や人間関係は学べるはずです」

 これまで何度も考えてきたのだろう。ここまで一息に言い、「まあ、無理だろって言われちゃうんですけどね」と続けて笑った。

 しかしその言葉に、絶望の色はにじんでいない。世間の声を受け止めながらも、信念を曲げていない。世間が変わることを信じている、というべきか。

 「もうひとつは演劇をすることです。ぼくがお芝居をしているから思うことなのですが、人間のいろいろな立場を実際に経験することによって、はじめて理解できることもあると思うんです」

 彼女自身も、いじめをする人の気持ちはわからなかった。でも「好きな人を殺してしまう役」と「好きな人が自分のものにならないから、その奥さんを処刑させる役」を演じて、その気持ちは変わった。

 「傷つけることによって自分の存在を相手に刻み込むことの喜びを、垣間見たんです」

 いじめも同じだと彼女は言う。いじめている間は、いろんな人に認識されて承認欲求を満たされる、と。

 「弱い人を傷つけるって、簡単にできるし、楽しいんです。ただ……」

 何かを思い出しているような、絞り出すような間があった。下唇を少しだけ噛んだあと、ややつらそうな声で言う。

 「ただ……、ふと罪を自覚した時に、とてつもなく苦しくなるんですよね」

 彼女の鋭い洞察力は、演劇で培ったものも多いのだろう。「演劇じゃなくて、ディベートでもいいんですけど」と言う彼女だが、本来の自分ではない立場に立つという意味では変わらない。

 「自分は絶対に正しい。だからいじめなんてするわけない、と思い込まないで」。いじめる気持ちも、いじめられる気持ちも、等しく理解してからでなければこの問題の解決策は出てこない。

自分は当事者ではなかった

 「学校に関して、ぼくは本当に恵まれていました。スクールカーストというものを感じてはいたけど、どのグループにも所属しなかったし、“クラゲ”みたいにふわふわと浮かんでいるかんじでした。

 だから、当事者ではないんです。でも、身近な子がいじめられていたことはありました。結局その子自身が解決したんですが、そのときぼくは何もできなくて、悔しかった。

 フォロワーさんが自殺配信をしたこともありました。ある日、ツイッターで「いろいろ言ってるけど、フォロワー死んでるじゃん」ってコメントをもらって。

 その子のことは知らなかったのですが、見に行ったらフォローしていたのが、ブログの管理サイトとぼくだけだったんです。『はるかぜちゃんみたいになりたい』というツイートもありました。

 もっと早くに気づいていたらって思って……。どうしようもなかったかもしれない。でも、気づけなかったことがつらかったんです。結局ぼくは、誰かを救えたりはしないって思いました」

 そして再び言葉を切り、彼女は語気を強める。

 「でもだからと言って、何もしないのは違うと思います」

 大きな声だった。先ほどまで何度も机の上をさまよっていた瞳は、まっすぐこちらを見ていた。いや私の後ろにいる多くの人たちに呼びかけているようだった。何かを見透かされたような気もした。

 「一人ひとりのところに行くことも、話をずっと聞いてあげることもできない。でも『春名風花はこう思うんだ』って伝えることはできます。関心があるよ、こういう解決策はどうかなって伝えていく。それだけしかできなくても、そうしたいと思っています」

 辛い出来事に出会ったとき、向き合い続けることもできるが、見ないふりも当然できる。多くの人はどこかで無力さを感じ「自分には変えられない」と言ってやめてしまう。なぜ、向き合い続けることができているのだろう? 

 「自分がしたいから、です。ぼくは、自我という意味での『エゴ』を大事にしています。お芝居が好きだからやる。いじめが嫌いだからなくす。そういうすごくシンプルなことなんです」

 彼女はいとも簡単に答えた。その口調は透き通った声と相まって、じつに軽やかだった。

彼女を支えてくれた人間関係

 3歳からブログ、9歳からはツイッター。幼い頃からインターネットを通じてたくさんの大人と触れ合い、炎上も経験した。彼女はそのことに対し、どんな思いを抱えていたのだろう。

 「わかりあえない人間がいるって、小さい頃はわからなかった。それで何度もぶつかって、炎上することもありました。大人に失望しそうになったこともあります。

 たとえば、アンチの方が『死ね、クソガキ』と言うと、ぼくの味方であるフォロワーが『お前こそ死ね』って言うんです。もうなんといったらいいかわからなくて……。

 大人同士が喧嘩しているっていうのは、当時は結構な衝撃でした。時には殺害予告もされたし、ツイートに関しても本当は大人が書いているとか言われましたね。悔しかったです」

 しかし、彼女を支えてくれたのは両親だった。

 「家族がぼく以上に怒ってくれたんです。傷ついたら、怒ってくれる人がいる。それはすごく支えになりました。ひどいことを言われても、もっと大事なひとたちが他にいるとわかっていた。だから、あんまり重要視しないでいられたと思います。

 今では、『わかりあえない人間がいる』って気づけたことが本当に良かったと思っています。『ある話題ではどうしてもわかりあえなくても、他の話題だと気が合うこともある。人間は見える部分だけではなく、多面的なんだ』って気づくこともできました」

 だいぶ傷ついたんじゃないかなって思いながら見ていました。私がそんな風に正直に伝えると、少しだけ目を伏せて「なんも感じなかったわけじゃないです」と小さく囁くように教えてくれた。両親について、彼女はこう語る。

 「ぼくには言わなかったけれど、父は母に『大丈夫なの? 』って心配して聞いていたみたいです。

 母は厳しいことを言う時もありましたが、基本的には『信頼しているから、細かいことは言わない』っていう姿勢だったので、信頼を裏切っちゃいけないと思っていました」

 昨今のインターネットの進化はめまぐるしい。子どもが見慣れないツールを使い出し、知らない人と簡単に関われてしまう。親としてどんな風に振る舞えばいいか、悩んでいる人も多いだろう。

 「子どもの中で流行っているツールは、将来重要なツールになることもある。子どもに教えを請いて一緒に勉強して、危険性をきちんと理解してもらったあとは見守りたい。触れさせないのではなく、小さい頃から触れてもらって守れる範囲の失敗をいっぱいしてもらいたいです」

 春名さんはツイッターを使う上で、両親に「助けてと言うまで助けないで」と伝えていたそうだ。著書『少女と傷とあっためミルク』の中にもこんな一文がある。

 「『親はいったい何をしているんだ』。そんなことを言われながら、下唇をかんで、こぶしを握りしめて、手を出さず、だまってぼくが転び続けるのを見ていたこと、ぼくは知ってるよ」

 インタビューをするまで、どうして彼女がここまでまっすぐでいられるのかをずっと不思議に思っていた。でも、答えは簡単だった。

 彼女の身体には愛が詰まっている。何かに簡単に負けたりしないほどの愛情を持って、彼女は社会と向きあっているのだ。

 いじめをなくすために、大人にできることはなんだ。私たちができることはなんだ。そう考えざるを得ない。

 「まず当事者の親だったら、『信頼して欲しい』っていうのがあるんじゃないかと思います。

 たとえば『学校へ行きたくない』と言った時も、根掘り葉掘り聞かれるのは苦しいし。だからと言って放って置かれるのもつらいので難しいですが……。

 あなたがどういう決断をしても、あなたの決断だったらたぶん大丈夫って、見守ってくれるのは嬉しいと思いますね。

 それから第三者の大人は、どうしてこうなったのかっていう原因を考えて、どうしたら改善するのか解決方法を考えて提案し続けて欲しいです。『わたしはこう思う』って、発信して欲しい。

 もしかしたら苦しんでいる人に届くかもしれないので。変わらないだろうと思って何もしないのだけは違うんじゃないかって思います」

 最後に、将来の夢は? と聞くと「お芝居で、一山当てたいです」と明るく答えてくれた。まっすぐな性格は、彼女自身の夢にもしっかり反映されていた。

 きっと彼女は、信じる道を進むだろう。その先に何があるか、成功できるか、いつ実るのかなんて、気にも留めず。

 「一回きりの人生、せっかく生きた証を残しやすい立場にいるんだし、残せるだけ残そうって思ってます。他のお仕事に関しても、これからに関しても。ぼく、運がいいから、きっとなにかやるんだろうなって思っています」

 ふふっと笑った時、深刻そうだった瞳がいたずらに揺れ、子どものようなあどけなさが一瞬戻った。

 この日彼女は、「やらないよりは、やるほうがいい」と何度も言った。

 まっすぐな心を、「年齢によるもの」と思う人もいるかもしれない。「私もあの頃はまっすぐだったな」なんて。

 でも、きっと、彼女は年を重ねてもまっすぐ進んでいくだろう。彼女は今日も声をあげる。届かないかもしれない声を上げ続ける。

 大人にできることは、何だろう。

[出典:なぜ「いじめ」はなくならないのか?春名風花さんがたどり着いた結論(現代ビジネス)(Yahoo!ニュース > ]

「3歳からブログ、9歳からはツイッター」と、まだ若いのにすごく行動力のある人だなと思いました。
そしてすごく強い人だなと思います。
炎上も恐れない、自分の考えをはっきり言える、単純にすごいなあと尊敬します。

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