夢の大舞台へ

 雀たちのさえずりが朝の始まりを告げる頃、お気に入りのアニメの主題歌が大野ゆかりに起床を促す。音に敏感な彼女は、イントロが終わる前に起きてスマートフォンの目覚ましを止める。布団の中で軽く背伸びをした後、素早く起き上がってカーテンを全開にする。

 「みんな、おはよう!」

 二階から見える通行人に向かって声をかける。彼女の頭の中では、アニメの第一話のイメージが広がっている。主人公になりきり、思いきりの笑顔を通行人に向ける。高校二年生の彼女の夢は、声優になってアニメの主題歌を歌う事。この挨拶は、毎朝欠かさずに行うルーティーンなのだ。

 「ねえ、ゆかりってアニメ声だよね。声優になれば良いんじゃない?」

 中学校に入学したての頃、初めて友だちになった子に言われた何気ない言葉。アニメは好きだけど、声優になるなんて思ってもいなかったゆかり。その後も「可愛い声」「良い声」と言われる度に、声優になってみたい気持ちが膨らんでいった。

 高校二年生になり、将来の進路として声優になりたい事を両親に告げた。公務員になってほしかった母親は反対したが、アニメ好きの父親は娘の夢を応援してくれた。

 「ゆかりなら絶対になれるよ。お父さん、応援する」
 「ありがとう!」

 父親の説得で母親もしぶしぶ了承し、高校卒業後に名古屋の声優専門学校に通い始めた。呼吸法や声の出し方、滑舌やイントネーションなどの基礎を学ぶ。役者として、台本の読み方や文字の表現方法、ダンスを通して体を使っての表現方法を学ぶ。月曜から金曜、朝九時から午後六時までやる事は多い。

 「ゆかりんは顔も声も可愛いから、すぐに売れっ子になれそうだね」

 一緒に昼食を食べながら、同級生の高田珠美が話しかける。

 「たまみんだって可愛いから大丈夫。一緒に頑張ろうね」

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 声優の世界で食べていけるのは、ほんの一握りしかいない。同級生たちは皆ライバルだって事はわかっている。周りが皆上手くて、特に滑舌に自信がないゆかりは悩みが多かった。

 本当に声優になれるのか? 声優になれたとして、それで生活していけるのか?

 家に帰って母の顔を見る度に、申し訳ない気持ちになる。やはり母の言う通り、公務員になれば良かったのかも知れない。そんな不安な気持ちを打ち消してくれるのが、珠美の笑顔だった。いつも前向きで、ポジティブな言葉を与えてくれる。彼女のお陰で、何とか二年間の学校生活を続ける事が出来た。

 その後、東京に上京して事務所所属となり、オーディションを受けるも落ち続けてばかり。同じ事務所になった珠美と一緒の部屋で暮らしながら、励ましあって頑張った。二十一歳になってようやく、二人の声優デビューが決まる。小さな小さな役だったが、彼女たちにとっては大きな一歩となった。

 少しずつ声優の仕事が増えてきたが、それだけでは食べていけない。ゆかりはコンビニ、珠美はファーストフードの店でアルバイトをする毎日。会社の制服姿で買い物に来る女性たちが眩しく見える。

 そんな彼女たちの息抜きは、カラオケで思いっきり歌う事。歌手デビューしている先輩声優の歌い方を真似するのが楽しい。上手い人の真似をするのが上達の早道と考え、台詞の言い方や歌の歌い方などを研究するのが日課となった。

 ある日、事務所の忘年会でカラオケをする事になり、二人は日頃の練習の成果を披露する時がきた。ゆかりと珠美、それぞれが事務所の先輩を完全コピーして歌い切り、その場にいた全員から「似てる!」「上手い!」と絶賛の嵐。そしてこの日の出来事が、彼女たちの運命を劇的に変える事になる。

 「君たち、歌手デビューが決まったよ!」

 この日の動画をたまたま見た大物プロデューサーが、新しく始まるアニメの声にピッタリだと二人を大抜擢。主要キャラクターとして参加すると同時に、オープニングテーマを二人で歌う事に決まった。

 アニメの大ヒットと共に、二人の歌も大ヒット。彼女たちのMVの累計再生回数は一億回を超え、地上波テレビの音楽番組にもたびたび出演、全国的に顔が知られるようになる。

声優としてよりも、先に歌手として売れた二人。それでも、少しずつ声優としても認知されるようになり、出演作の主題歌を歌う事が当たり前になっていった。

 そして二十四歳になったゆかりは今、全国アリーナツアーの最初の地、大阪にいる。大阪城ホールには、大勢のファンが待ち構えている。舞台袖のゆかりは、珠美の手をしっかりと握っていた。

 「いい? 行くよ!」
 「うん」

 珠美の声にしっかりと頷くと、ゆかりは夢の大舞台へ駆け上った。大勢のファンの歓声が飛び交う。スポットライトが当たる。深々とお辞儀をする二人の夢は、まだ始まったばかりである。

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