君に届け、この思い

「あきらさん、お肌が荒れてますよ?」
「えっ?」
「何か、悩み事でもあるんですか?」
「まあ、四十を越えたおっさんだからね。若い頃みたいにはいかないよ、ははは」
「いやいや、まだまだお若いですよ。私ね、もともと勘が鋭い方だったんですけど、こういう仕事を始めてたくさんの人の肌に触れるようになってから、更に敏感になっちゃって、触れている人の心の痛みが伝わってくるんですよね」
「心の痛み?」
「そうです。あきらさん、昨日会った時と明らかに違いますよ。だって、私の心がキューって締め付けられる感じがしますもん」
「……」
「恋の悩み、だったりして」
「えっ? わかる? そう、本当は君に恋してるんだ」
「またまた~。そんな事言って、喜ばせないでくださいよ。もうちょっと早く言ってくれたら、旦那と結婚しなかったんですけどね」
「そうだよね、今年結婚したばかりだもんね、三井さんは」
「あきらさん、ご結婚はまだですか? いい人、いらっしゃるんでしょ?」
「それは秘密。ファンの夢を壊せないからね」
「そうですよね。はい、出来ました。今日も素敵ですよ」
「ありがとう」

 メイクの三井さん、霊感あるって聞いてたけど、すごいな。俺の心まで視(み)えてるのかも知れない。彼女が言うように、胸が締め付けられるように痛い。苦しい。これは肉体的な原因なんかじゃない。昨日、あの人に会ってからだ。

 初めて会ったのに、なんか懐かしい感じがした。もしかしたら、前世で出会っていたのか? あの、吸い込まれそうな澄んだ瞳。プルンとした上唇。子どもを産んだとは思えない華奢(きゃしゃ)な体。他に誰もいなかったら、思わず抱きしめていたかも知れない。ああ、子どもを出しにして、一緒に写真撮れば良かった。

 これは運命の出会いに違いない。そうとしか思えない。だって、心の奥底で「そうだよ」って言ってる。一目惚れなんて言葉じゃ軽すぎる。もっと強い絆、運命の赤い糸で結ばれてるとしか思えない。

 今まで出会った女性たちとは、こんな感情は起きなかった。人気商売だから、特定の人だけを愛するなんて許されないと思ってきた。事務所のためにも許されるはずがない。

 だけど、今回は違う。普段は常識人間の俺が、世間の常識を越えようとしている。あの人が人妻だって構わない。どんな旦那だか知らないが、俺の方が彼女に相応(ふさわ)しい。きっと前世では恋人同士だったはず。でも結局、結ばれなかった。そして現世でも二人は離れ離れになってる。おかしい、これは絶対におかしい。

「マネージャー、この前のPV撮影に来てた男の子、名前何だっけ?」
「ちょっと待ってください。えーっと……あっ、本橋悠真(もとはしゆうま)くんです」
「俺さ、あの子に一目惚れしちゃった。また会えるようにセッティングしてくれない?」
「わかりました。あの子のお母さんに聞いてみます」

 よし、何とか彼女に会う口実が出来たぞ。彼女だって、芸能人の俺にまた会えるんだから嬉しいに決まってる。それに、俺たちは前世で恋人だったんだから、嬉しくないはずがない。ああ、約束の日が待ち遠しいなあ。

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 そろそろ約束の時間だ。もうすぐあの人に会える。今日はプライベートだから思いっきりジャージだけど、幻滅されちゃうかな。でも、子どもと遊ぶならジャージだよな。ボールも持ってきたし。子ども好きってわかってもらえば、息子の父親像のイメージが湧くはず。

「遅くなりました、すいません。はあはあ……」
「走ってこられたんですか? すいませんね、急がせちゃって。おー、悠真、会いたかったよ!」

 悠真、お母さんに似て可愛いな。お前のお父さんは他の男か。どうして俺じゃなかったんだ。こんなに懐(なつ)いてくれるのに。本当は俺の子じゃないのか? もう、俺の子になれよ。いいだろ? 俺がお前のお母さんと一緒になったら、俺はお父さんになるんだからな。

「このお弁当、お母さんが作ったんですか?」
「は、はい……。お口に合うかわかりませんが、良かったら召し上がってください……」
「はい、遠慮なく頂きます。うん、美味い! 料理お上手ですね。旦那さんが羨ましい」
「えっ? あ、ありがとうございます。嬉しいです。うちの夫なんて、褒めてくれた事ないですから……」

 心なしか、彼女の瞳が潤んでいるように見える。もしかして、旦那と上手くいってないのか? これは、もしかすると、もしかするかも……。

 彼女と会うのも、今日で三回目だ。もうそろそろ、深い話をしても良いんじゃないか?

「奥さんみたいな綺麗な女性と結婚出来て、ご主人は幸せ者ですね」
「き、綺麗だなんて……」
「ご主人は優しいんですか?」
「……優しいかと言われれば、ちょっと微妙です……」
「えっ? もしかして、手を上げたり?」
「……はい」
「それはひどい! 男として許せない! 僕だったら、絶対、あなたを泣かせるような事はしない!」

 彼女が驚いた表情をしている。俺が真剣な表情をしているからか。でも、これが俺の本音だ。嘘偽りなんかない。

「……ありがとうございます。実は私、昔からあきらさんの大ファンなんです」
「えっ? そうなんですか?」
「はい……。実は私、息子を出しに、毎回あきらさんに会える日を楽しみにしていたんです……」
「あー、そうなんですか。嬉しいなあ。本当に、嬉しいなあ」

 あー、今日のビールは苦いな。あの時、どうして言えなかったんだろう。「あなたが好きです」って。夢の中ではいつも、彼女を抱いているのに、現実の俺は手に触れる事すら出来ない。

 彼女は俺の事を好きだ。旦那なんかより、俺の事が好きなんだ。目を見ればわかる。だけど、不倫はダメだ。どんなに彼女を抱きたくても、お互いが不幸になるのは目に見えている。俺の芸能人生は終わるし、彼女も不幸にしてはいけない。

 だけど、この気持ち、どうする事も出来ない。俺は彼女を愛している。今すぐにでも、彼女を迎えに行きたい。だけど、それは絶対にダメだ。ああ、苦しい。この思い、君に伝わるかい?

 自分の気持ちを隠して、友人として付き合ってきたけど、今日は大事な話があるって連絡が来た。まさか、俺と会ってる事が旦那にバレたのか? 

「すいません、お忙しいのにお呼び立てしちゃって……」
「いえ、僕は大丈夫ですけど……。もしかして、何かあったんですか?」
「実は私……シングルマザーになりました」
「えっ? シングルマザー? じゃあ、離婚、ですか?」
「はい……」
「……そうですか。それを聞いて、僕も覚悟を決めました」
「えっ?」
「僕と結婚してください!」
「は、はい? 結婚?」
「はい。あなたの事が好きです。愛しています。世界中の誰よりも、あなたの事を愛しています。絶対に幸せにします。子どもたちの事も大事にします。だから、僕と……僕と結婚してください!」

 あれ? 俺、泣いてる? きっと、感極まってるんだな。それだけ本気だって事だ。あれ? 彼女も泣いてる? なんで?

「あの……ダメ、ですか?」
「い、いいえ……。う、嬉しくて……。ずっと、あきらさんの事が好きでした……。結婚して子どもが生まれても、あきらさんが好きでした……。ずっと、どうして私、あきらさんの妻じゃないんだろうって思ってきました……。だから……」
「うん、うん、もう良いよ。もう良い……。もう君を、一生離さない!」

 あれ? 気づいたら俺、彼女を抱きしめてる。まあ、いっか。誰も見てないし。あっ、悠真が見てる。

「悠真、今日から俺が、お前のパパだ!」
「パパ!」

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