長い長い初恋〜女性目線〜

この作品は、神野守作【切ない恋愛短編集】「長い長い初恋」を大河内ミュウさんが二次創作したものです。
まずは、神野守作【切ない恋愛短編集】「長い長い初恋」を読んでから、こちらを読んでいただくとより内容が理解できると思います。
神野守作【切ない恋愛短編集】「長い長い初恋」

 「僕たちもう、終わりにしょう」

 きっかけは些細な口ゲンカ。お互い意地を張って譲らない。壮輔の背中が遠くなる。私はその場に立ち尽くしたまま、薄っすら涙を浮かべている。本当は別れたくないのに。彼を引き留めたいのに、体が動かない。誰か、助けて……。

 はっと目が覚めた。夢だ。重苦しさを胸に抱きながら横を見ると、隣に眠る壮輔の背中がある。夢で良かった。大きな背中に頭をつけて、私は再び眠りについた。

 彼との出会いは中学生の頃。隣の席だった私は、一目で恋に落ちた。知的な細フレームの眼鏡の奥で、優しげな瞳が私に微笑みかける。毎日彼に会えるのが楽しみで、ついつい笑顔がこぼれてしまう。お互い苦手なことを教えあったり、日々の絶え間ない出来事に一喜一憂したり。まるで親友のような間柄だった。

 楽しいんだけど……嬉しいんだけど……。彼に自分の思いをどうしても伝えたい……。

 雑誌には毎月のように、恋愛のアドバイスが書かれている。いつも自分には無縁と思いながらじっくり読んでこなかった。もちろん友人にも相談した。この頃の女子たちは漫画やドラマに影響され、恋に恋する乙女なのだ。

 え、うそっ…瑞稀すごいじゃん! どこまでいったの? 手、つないだ? キ、キスは?

 まるでワイドショーのリポーターである。

 「だから、まだ告白してないんだってば」

 結局答えが出せないまま、どんどん月日は流れ、中学3年の夏を迎えた。受験勉強の息抜きにと、壮輔が花火を見に連れて行ってくれた。そんな彼の優しさが胸に染みて、ますます思いが強くなる。

 受験が終わってからカレにきちんと伝えよう。もうすでに好きな人がいるかも知れない……。こんなに優しいから、付き合っている人がいてもおかしくない。

 「僕と付き合ってくれませんか」

 そんな言葉が急に飛び込んできた。

 いいなぁ……花火を見ながら告白。ロマンチックで素敵だな……。

 ……えっ?……

 聞きなれた声に驚いて彼を見る

 ……わ、わたし!?

 「いいよ」

 なんて可愛げのない返事なのだろう。

 でも、彼も私を好きでいてくれたなんて、信じられない。ぼう然と立ちすくむ私に、優しく手を差し伸べる彼。迷わずその手を握り返した。

 晴れて恋人同士になった私たちは同じ高校に行きたくて、ますます勉強に打ち込むようになった。デートの場所は決まって図書館。それでも私たちは幸せいっぱいだった。帰り道は近所の公園でデートして、バイト先も一緒がいいよね? これから先訪れる楽しい日々を語り合っていた。それなのに……どうして……。

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 「私ね、引っ越しすることになった」

 精一杯、明るく伝えようと思ったのに……。昨日あんなに練習したのに……。やっぱり無理だった……。涙が止まらなかった……。

 大好きな人との初めての別れ。悲しみや不安が波のように押し寄せる。下を向いたまま、いつまでも手をつなぎ合っていた。

 距離が離れてしまった私たちは、同じ大学を受けることを約束。どうしようもなく会いたくなる時もあるけどガマン! お互い励ましあって何とか合格。これでずっと一緒にいられる。まるで会えなかった時間を埋めるように、一晩中、幸せな未来を語り合っていた。

 ……ちょっと……近づきすぎたのかな……。

 壮輔だって、たまには一人になりたい時もあるよね。今まで見えなかった、少し悲しげな笑顔。ささいな口ゲンカがもとで、二人の恋は……終わりを告げた。

 それから何年かの歳月が流れ、お互い別の人と結婚。私のことをいつも優しく見守って気にかけてくれる主人との生活は、
とても穏やかで平和だった。

 だけど、そう思っていたのは最初だけ。いつも私の行動を監視し、一人だけの外出は基本禁止だった。友人と会う時でさえ、彼女の名前と連絡先、帰宅時間などを報告しなければならない。まるで一日中ゲージに入れられて、自由を奪われた猫のようである。

 そんな生活が三年続いたある日、私は思い切ってゲージを飛び出した。経済的にはかなり苦しくなったが、仕事から帰ってきても全て、自分のためだけに時間が使える。何時にご飯を食べようが、いつお風呂に入ろうが、あれこれと監視する人がいない。明日はお休みだから、新しい服でも買いに行こう。そう思いながら深夜二時、眠りについた。

 お気に入りの店で、少し丈の短い秋色のワンピースを購入。休みの日にはこれを着て、友人達と女子会をするのも良いかも知れない。そんな思いを巡らせて家へと向かう。すると、前方に懐かしい人影が見えた。

 ……壮輔!?

 声をかけようと思った瞬間、彼も私に気づいた。何年も会ってなかったことが嘘みたいに、またあの時の二人に戻っていた。柔らかな日差しが降り注ぐ彼の部屋で今、心から安らぎを感じている。あなたがそばにいてくれたら、もう何もいらない。

 お互い離婚を経験して、あの時よりもずっとずっと大人になった。今ならきっと、上手くやっていける。長い長い遠回りだったけど、止まっていた初恋の時計が、再び時を刻み始めた。

 Fin    作:大河内ミュウ

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