第三話「父親に憑依された娘」

私の友人が経験した話である。友人のT氏は心霊研究家で、本業を別に持ちながら、ボランティアで霊体験に関する相談を受けている。

T氏は今までに、霊が入った人を何度も見ており、その対処法に関して独自に編み出した手法で解決してきた。

私は、霊が入ったという現場を見たいと思いながら、今まで一度も経験がないのだが、T氏は何度もそういう場面に出くわしているそうで、心底羨ましいと思っている。

T氏が呼ばれて行ったのは、ある年配の男性のお通夜の晩だった。八〇代で亡くなった男性のお通夜に、親族が集まっているとき、それは起こったのだ。

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突然、四〇代の末娘が苦しみだしたのである。彼女はかなりの霊媒体質で、以前から霊には苦しめられてきたそうだ。

彼女の身長は低いほうなのだが、少しぽっちゃり体型である。そんな彼女が、突然ゴロゴロと転がり、苦しみだしたのだ。

その場には、彼女の夫、子どもたち、母親、兄弟姉妹がみんな揃っていた。

そして、彼女が話す言葉が、どうも《男言葉》のようなのだ。普段は穏やかに話す彼女の豹変ぶりに、その場にいた親族はみな凍りついたという。

彼女の夫は、以前からなにかと相談に乗ってもらっていた心霊研究家のT氏に電話をかけ、来てもらうことにした。T氏は一目で、彼女の亡くなった父親が体に入ったことがわかった。

T氏が言うには、父親は生前に《死後の世界・霊界》があることを信じていなかったので、真っ暗な闇に突然放り込まれて困惑している、とのことだった。霊界を信じないで死ぬと、霊界では目が見えないのだとT氏は説明した。

それで、彼女の体の中にいる父親に向かって、今の状況を説明して安心させたのだ。その結果、娘の目を通して見えるようになった父親は、落ち着きを取り戻したのである。

その場にいた親族は、T氏から説明を受けて納得した。それもそのはず、確かに彼女の話し方は、生前の父親そのままだったのだ。しかも、彼女がまだ生まれてなくて知らないはずのことまでも語りだしたので、本当に驚いたそうだ。

その話をあとで聞いて、その場面を見てみたかったと心底思った。霊を見たとか、霊が入ったとか、そういう話はよく聞かされるのだが、一度もそういう場面に遭遇したことがないので、いつかは体験したいと思っているからだ。

子どもが小さいころ、誰かと話しながら遊んでいたりする場面を何度か見たが、そのときにそばに霊がいて、一緒に遊んでいたのかも知れない。

《純粋な心の持ち主》にしか見えないのかなあ。
あるいは、修業すれば視えるようになるのかなあ。

そう思いながら、いつか霊眼が開ける日を心待ちにするのだった。

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