ねえ、眠れないの? 困ったなあ。じゃあさ、眠くなるようにお話してあげるね。
グリム童話にね、「ラプンツェル」ってお話があるんだけど、知ってるかな? ディズニー映画で「塔の上のラプンツェル」ってあるよね。あの映画の元になったお話がグリム童話の「ラプンツェル」なんだけどね。これがね、原作とかなり違っててびっくりしちゃった。
まず映画では、主人公のラプンツェルは王国の王女なんだよね。でも原作では、普通の家の子どもなの。一方、恋人のユージーンは、映画では王国一の泥棒なんだけど、原作では王子って事になっている。つまり、原作と映画では、二人は逆の立場なんだよね。
ラプンツェルを塔の上で育ててきたのはゴーテルなんだけど、原作では、主人公の両親の家の隣に住む魔女だったんだよね。ラプンツェルを妊娠した妻が、隣りに住む魔女の庭にあるラプンツェルと言う名前の植物を食べたい、食べないと死んじゃうと言い出して、妻とお腹の子どものために夫がこっそり取ろうしたら、魔女に見つかってしまった。
魔女に事情を説明すると、好きなだけ持ってって良いが、子どもが生まれたら私に渡すんだよ、私が母親のように育ててあげるからねと言って、夫はそれを約束しちゃうんだよね。これもまたおかしな話なんだけど、結局、生まれた子どもを魔女は連れていってしまい、ラプンツェルと名前をつけて森の中にある入り口のない塔の上に閉じ込めてしまうんだよね。
一方、映画では、ゴーテルは実は四百歳の老婆で、「どんな病気でも治す金色の花」の力を利用して美貌を保ってきたの。ところが、妊娠中の王妃が病気になってしまって、その金色の花が摘まれてしまい、その花の力を髪に宿して生まれてきた赤ん坊のラプンツェルを誘拐して育てながら、その力を利用してきたんだよね。ゴーテルがラプンツェルを「お花ちゃん」と呼ぶのは、金色の花の代用って意味なんだって。
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そして、塔の上に上る時は、ラプンツェルが長い髪を下に垂らして、その髪に捕まって登ってくるんだよね。四十尺も垂らすって言うから、一尺が約三十センチとして約十二メートルになるね。
原作では、王子が森の中に入った時、たまたま塔の下を通ったら、上の方からラプンツェルの美しい歌声が聞こえてきたんだよね。上に登ってみたいと思ったんだけど、入り口を捜しても見つからないので諦めて帰っちゃった。だけど、歌声が忘れられなくて、毎日通うようになったんだって。
ある時、ゴーテルがラプンツェルから髪を降ろしてもらって登っていくのを見ていた王子は、次の日の夕暮れ時にやってきてラプンツェルに呼び掛けて髪を垂らしてもらい、塔の上まで登っていったんだよね。
初めて男性に出会ったラプンツェルは驚くんだけど、原作の初版では、やがて二人は愛し合うようになって、毎晩のように王子を部屋に招き入れた結果、ラプンツェルは妊娠しちゃう。それがゴーテルにバレちゃって、激怒してラプンツェルの長い髪を切ってしまい、砂漠に放置してしまうだよね。
そんな事など知らない王子がラプンツェルを訪ねてくるんだけど、ゴーテルから事のいきさつを聞かされて絶望してしまい、塔の上から飛び降りちゃうんだよね。命は助かるんだけど、バラの棘(とげ)で王子は両目を失明しちゃうの。
それから、見えない目で森の中を七年ぐらい彷徨(さまよ)った王子は、男の子と女の子の双子を産んで育てていたラプンツェルに偶然出会うんだよね。ラプンツェルが抱きついて、彼女が流した涙が王子の目に入ると、見えなかった両目が見えるようになったんだよね。その後、王子はラプンツェルと双子を連れて国に帰り、みんなで幸せに暮らしたんだって。
しかしまあ、王子は両目を失明しながら、七年も森の中を彷徨(さまよ)っていたんだけど、どうやって生きていたのか気になるよね。ラプンツェルにしても、砂漠の中で一人で双子を出産して、一人で育ててきたなんて、どんだけ生命力があるんだって思うよね。どう? 眠くなった? それは良かった。じゃあ、おやすみなさい。
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