七月生まれの彼女

 台風が来ているわけではない。それなのに、強い風が窓ガラスを揺らしている。この部屋は曇りガラスで、外の様子は見えない。こんな日に出歩く人もいないだろう。まるで俺の心のようだ。健太郎(けんたろう)はソファーに寝転がりながら、ぼんやりと考えていた。

 律子(りつこ)がいなくなってから、仕事をする気も起きない。友人と始めた便利屋の仕事も減っていき、今は一人で細々とやっている。彼は仕事どころか、生きる気力さえ失くしている。机と椅子、そしてソファーしかないこの事務所に、寒々しい空気が蔓延している。まだ夏だと言うのに……。

「来月、誕生日だったよね?」
「覚えていてくれてありがとう。ちなみに、誕生石はルビーよ」
「それは、指輪を期待しているのかい?」
「ええ、あなたもそのつもりでしょ?」

 健太郎の脳裏に、彼女の笑顔が思い浮かぶ。仕事の依頼を何度も受けるうちに、二人はプライベートでも付き合うようになっていった。運命の出会いのように思えた二人。どちらからともなく、自然と一緒に住むようになった。

 男は黙って仕事をすればいい。そんな昔気質(むかしかたぎ)で職人気質(しょくにんかたぎ)の彼は、無口で多くを語らない。そのため、恋愛とは無縁の生活を送っていた。

Sponsered Link



 一方の律子は、恋多き女。惚れっぽい性格で、男の扱いは手馴れている。まるで車を買い替えるように、次から次へと新しい男を渡り歩いていた。

 父から受け継いだイタリアの血のせいだろうか。情熱的に口説き、どんな男も虜(とりこ)にしてしまう。健太郎も例外ではない。仕事をしていても彼女の事が頭から離れず、それまで毎日のように飲み歩いていた生活が一変した。仕事が終わればすぐに帰宅。休みの日も、彼女と共に行動をする。

 彼女が選んだ服を着て、彼女が選んだ靴を履き、彼女が選んだ車に乗る。そのうち、仕事も一緒にするようになり、家だけでなく事務所でも一緒の生活になった。

 しかし、仕事に対する考え方の違いから、二人は口喧嘩をするようになっていった。ある日、事務所にいた二人は口論となり、大きな喧嘩に発展してしまった。

「あなたとはもうやってられない。私は出て行くわ」
「そうか。好きにすれば良いさ」

 売り言葉に買い言葉で、ついそう言ってしまった健太郎。目の前で指輪を外そうとする彼女に「返さなくて良いよ。いらなかったら捨ててくれ」と強がりを言った。

 今でも街を歩けば、彼女に似た人を見るとつい指を見てしまう。ルビーをつけているんじゃないかと思って。あれから二年が経つのに、健太郎は未だに立ち直れないでいる。

『雨の中の女 神野 守 短編集 第1巻』amazonで販売中!

https://www.amazon.co.jp/dp/B07FYRKPL2/

Sponsered Link



投稿日:

執筆者:

Sponsered Link




以下からメールが送れます。↓
お気軽にメールをどうぞ!

こちらから無料メール鑑定申し込みができます。お気軽にどうぞ!
お申込みの際は、お名前・生年月日(生まれた時刻がわかる方は時刻も)・生まれた場所(東京都など)を明記してください。
ご自身のこと、または気になる方との相性などを簡単にポイント鑑定いたします。何が知りたいかを明記の上、上記までメールを送ってください。
更に詳しく知りたい方には有料メール鑑定(1件2000円・相性など2人の場合は3000円・1人追加につきプラス1000円)も出来ます。
有料鑑定のお申し込みは「神野ブックス」まで!

神野守の小説や朗読作品その他を販売するお店です。創作の応援をしていただけるとありがたいなと思います。

「神野ブックス」

最新の記事をツイッターでお知らせしています
神野守(@kamino_mamoru)

  • 73現在の記事:
  • 290401総閲覧数:
  • 394今日の閲覧数:
  • 65昨日の閲覧数:
  • 755先週の閲覧数:
  • 2639月別閲覧数:
  • 172552総訪問者数:
  • 39今日の訪問者数:
  • 58昨日の訪問者数:
  • 354先週の訪問者数:
  • 988月別訪問者数:
  • 45一日あたりの訪問者数:
  • 1現在オンライン中の人数:
  • 2018年8月14日カウント開始日: