財布に30万円入っていても万引きしてしまう「万引き症」という病気

「万引き症」という病気があることをご存知ですか?

貯金2000万円の女性看護師を万引きに走らせた「窃盗症」の恐怖

150~300人に一人、他人事でない 2018.10.31
長嶺 超輝 フリーランスライター

30万円を所持しているのに、万引きした主婦

もう、10年以上前の出来事になる。

私は、とある裁判を取材するため、四国に1週間滞在し、徳島地方裁判所に月曜から金曜まで通い詰めていた。

取材の合間で時間が空くたび、その時間帯に行われている別の裁判を飛び込みで傍聴することを繰り返していた。そのとき、たまたま居合わせた窃盗事件の裁判が、今でも忘れられない。

中年の主婦が、スーパーマーケットで食料品を万引きしたという、裁判所の中ではありふれた事件だ。

ただ、逮捕直後の様子を記録する警察官の報告書や、取調室での被告人の話をまとめた供述調書の内容に、とうてい聞き流せない箇所があった。

「犯行当時、被告人は現金30万円を入れた財布を所持していた」という部分である。

30万円を持っていながら、店員や警備員の目を盗んで、棚に陳列されている食料品を万引きする。仮に守銭奴だとしても、度を超している。

被告人が犯行に及んだ背景が、私にはまったく理解できなかった。なぜなら当時、「クレプトマニア」の存在を知らなかったからだ。

今にして思えば、その主婦は、ひょっとするとダイエット中で、厳しい目標を立てて頑張っていたのかもしれない。

あるいは、社会的評価や家庭内での愛情などに、強い渇望をおぼえていたのかもしれない。

150~300人に一人の割合

クレプトマニアとは、経済的理由ではない衝動によって他人の物を盗みたくなる精神的症状をいい、日本語で「窃盗症」と訳されている。

精神疾患の国際診断基準である「DSM-5」は、クレプトマニアの生涯有病率を「0.3~0.6%」としている。よって、決して珍しい症状ではない。

およそ150人から300人に一人の割合なのだから、あなたの身近にクレプトマニア状態の人がいるとしても、まったく不思議なことではない。

また、クレプトマニアが窃盗に走る動機は、職を失い、預貯金が底をつき、店頭に並んでいるパンを持ち去ってしまうというものとは違う。足りない生活費を埋め合わせようと、ネットフリマなどで高く売れそうな流行の品物を狙って、盗みを繰り返すというものでもない。

クレプトマニアの人も、「殺めるなかれ、盗むなかれ」といった、社会の基本的なルールは理解している。では、クレプトマニアはなぜ万引きを繰り返すのか。

あえて「患者」という言葉を使うが、クレプトマニア患者が犯す万引きには、じつはいくつかの大まかな傾向を読みとることができる。

たとえば、クレプトマニアは、女性の占める割合が高く、ほとんどが単独犯である。

さらに、窃盗以外、法を冒す行動を一切しない傾向が強い。

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また、法を冒すリスクの高さに見合わない、数百円から千円程度の食品や生活雑貨などを盗んでしまう。その点で、「タダで仕入れて高く売る」転売を目的とした職業的な万引き犯とは大きく異なる。

「この世にあるすべての物は、自分の物である」といった妄想的確信や、「神のお告げによって盗めと命じられた」という幻聴に従って万引きをするわけでもない。クレプトマニアは、躁状態や反社会的人格障害などとも区別されなければならない。

一方、注目すべきは、他の精神疾患と合併しやすい傾向である。特に、摂食障害(拒食症)とクレプトマニアの深い関係が指摘されている。

摂食障害は、過剰なダイエットの結果として引き起こされることが多い。女性たちがスリムな体型の芸能人やファッションモデルなどを見て、「自分もああいうふうになりたい」と切望し、無理に食事を抜くなどして、「理想的な体型」を獲得しようとする。

周囲から「ちょっと痩せた?」と言われれば、当の本人は自信が付いて、さらなる減量に励む。女性だけでなく男性の中にも「もっと痩せたほうが可愛いと思う」などと、悪意なく指摘してしまう人がいる。それでどんどん、ダイエットの深みに嵌まり、やがて身体が食べ物を受け付けなくなる異常をきたすのである。つまり、摂食障害は、特定の文化圏内で常識として支配する「理想的な体型」が引き起こす、一種の現代病といえるかもしれない。

「盗むとき、恐ろしい顔つきになっていた」と供述

摂食障害までいかなくとも、厳しいダイエットに励んでおり、1日1食しか食べなかったり、体重の増減が激しかったり、理想の体重へのこだわりが強い人が、クレプトマニア患者へ移行するリスクも指摘されている。

最近、私が東京簡易裁判所の法廷で目の当たりにしたのは、30代女性看護師が、スーパーでシリアルを万引きした事件である。被告人には、約2000万円の預貯金残高があるらしく、シリアルを買えないわけではない。

しかし、「この店は規模が小さいので、警備が手薄そうだ」と、万引き道具のトートバッグを持ちこみ、計画的に犯行に及んでいる。カモフラージュのため、違う商品をレジを通して購入した上で店を出て行く念の入れようである。

実際には、その犯行の一部始終が店側にマークされていた。現行犯逮捕した警備員は、被告人のことを「かわいらしい女性だが、盗んでいるときには恐ろしい顔つきになっていた」と供述している。

この被告人は、まさに摂食障害の治療中だった。

供述調書や被告人質問で現れた彼女の話を総合すると、「食べてもどうせ吐いてしまうから、食べ物にお金を払うのがもったいない」という意識が背景にあったようだ。それを前提にすると、本人にとっては食料品を万引きしたくなるのは「合理的」だったのかもしれない。もちろん、店側にとってはたまったものではないのだが。

この事件では、店側が1万円の示談金のみを受け取り、「処罰は求めない」との意思を表明している。もっとも、検察官は懲役1年を求刑し、最終的には執行猶予付きの有罪判決が出された。

そもそも犯罪と刑罰について定められた刑法は、ある人が犯罪を犯したときに処罰されるべき根拠としての「責任能力」について、以下のふたつの能力に分けて考える。

① 物の分別や、行動の善悪がわかっている「事理弁識能力」
② 自分の言動を自身でコントロールできる「行動制御能力」

このふたつが備わっているにもかかわらず、あえて法を破って罪を犯したのなら、刑罰を科して責任を取らせて構わないものと考える。

大阪地裁の判例

その点、クレプトマニア患者は、事理弁識能力が正常だとしても、窃盗に限っては行動制御能力が欠けているか、非常に乏しい状態にある。

行動制御能力が欠けていれば「心神喪失」として、処罰の対象外とすることもできるし、著しく減退していれば「心神耗弱」として、処罰を軽くすることもできる。

大阪地方裁判所岸和田支部(2016年4月25日判決)は、「広汎性発達障害の影響下において、摂食障害、盗癖に罹患した状態にあり、これによる食料品の溜め込みと万引きへの欲求は、その生活全体に影響を及ぼすほど激しい」「善悪の判断に基づいて衝動・欲求を抑える行動制御能力については……著しく減退していた」として、犯行当時は心神耗弱だったと認定し、刑を軽くする根拠とした。

クレプトマニア患者による窃盗行為について、心神耗弱まで認めた裁判例は、現在では珍しいが、クレプトマニアへの理解が司法に浸透するにつれて、将来、量刑の傾向が大きく変化してもおかしくない。現行法の矛盾や理不尽に、司法は気づき始めている。

一方、刑法が定める窃盗罪は、罰金1万~50万円と懲役1カ月~10年の範囲で、法定刑が設定されている。また、盗犯等の防止及び処分に関する法律は、「常習累犯窃盗」という加重規定を置く。窃盗罪で懲役6カ月以上の判決を10年間に3回以上受けた場合に適用され、法定刑は懲役3~20年にまで引き上げられる。

クレプトマニアに限った話ではないが、いくら罰してもなかなか窃盗をやめない人に対しては、処罰のロットだけ増やしても仕方がない。クレプトマニアには、処罰よりも治療を優先させ、心理カウンセリングを中心にした窃盗防止プログラムを制度化すべきだろう。

盗みによって悲痛な思いに苛まれているのは、被害者のみと限らない。窃盗による新たな被害を増やさないためにも、今こそ、立法府が重い腰を上げ、しかるべき法改正や新法の成立に向けて真剣に取り組むべきではないだろうか。

[出典:貯金2000万円の女性看護師を万引きに走らせた「窃盗症」の恐怖(長嶺 超輝)マネー現代(講談社 > https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56651 ]

お金に困っているわけではないのに、人の物を盗んでしまう。
これはもう、無意識のうちにやってしまうのでしょうか?

アルコールやドラッグ、ギャンブルなどの依存症のようなものなのでしょうか?
およそ150人から300人に一人の割合と言いますから、意外に身近な人がそうかも知れませんね。

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