白木蓮

「その鞄の中、見せなさい」
「嫌でーす」
「やはり、隠しているな」

 白衣が病衣になったからだろう。少々精悍さは薄れたけれど、その分優しい眼差しになったと感じた。

「カルテ取り寄せられたら、週1の要通院と追記しとくのに!」
「お生憎様。今はもう患者じゃありませんからぁ」
「退院祝いの食事ではしおらしかったのに。元気だなぁ」

 夜の病棟廊下をふらついていた所を見つかり、リハビリ室で軽いお説教された。その後も用心してこっそりと抜け出したが、時々鉢合わせてしまい、いつの間にか数分会話をするようになった。不思議とその後はよく眠れた。

 およそ医者らしくなく、看護師やOTやPTが来ると彼は私を自分の使っていたデスクの下に潜り込ませた。

 足元の消化器におでこをぶつけた事もあり、目から星が見えそうだったと文句を言ったら大いに笑って「君のせいで夜な夜な独り言いう変な医者がいると言われているのに、どうしてそうネタ引き寄せるんだ」と言われた。

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 私が仕事復帰して間もなく、入れ替わるように彼が入院した。病院を知って愕然とした。特別な関係ではないが会いたかった。同じ病気で友人が旅立って間もなかった。同じ気持ちになりたくなかった。

「ここで見ているとするか。また歌って笑かすつもり?」

 彼が日差しを背負うとそのままいなくなりそうな気がして、胸の奥がきゅんと音を立てそうで困った。

「歌いません!私の事【森高をぽやぁあんとさせて、横に引き伸ばして寸胴にした感じの面白い人】って話していたくせに!『全然似てない面白い人』って言われた方がましだもん!」

 真面目な顔でちょっと歌ってと言われたからって、病棟で歌う私もお馬鹿だけど冷やかすにも程がある。元気になったら仕返しすると宣言していた。

「今日はこれなのだ!」

 私はお腹を押すと吹き輪が押し出される、クマのシャボン玉おもちゃを取りだした。

「イベント用にお子様などを覆う大玉づくりも手に入れました!いざ!」と勢いよく言うと「待って!待って!参った。参った。想像超越するわぁ!大玉は勘弁して。でもそのクマちゃんは向こうの廊下でこっそり吹いてみて」と笑う。

 たくさんのシャボン玉が日差しの中で七色に輝いては消えた。はじける寸前の表面張力が薄れると涙が滲む。私は全部消えないようにと酸欠になりそうなほど吹き続けてよろけた。「ありがと。楽しめたからもういいよ」と点滴棒と一緒の人に支えられた。消毒液と何かの薬の匂いがした。無理をさせてはいけない。

「よぉし。本日はここまで!次回をお楽しみに」と変顔してみせる。「その顔、最高!ずっとその顔でいなさい」と言いながら引き出しから小さな封筒を渡された。

「これは退院したら配る予定だけど先にあげる。で、その新品バイクの後ろに1番に乗せてあげるね。メットも用意してある。怖くないか?あぁ。少しダイエットしておいてね」と言われた。

 小封筒のなかには名刺サイズの写真カードが入っていた。ぴかぴかのバイクに寄りかかり、ライダースーツに身を包んだ彼がポージングしている。その下に「〇〇ドクター完全復活!」と印字されていた。

「おおお。かっちょええ!」と大袈裟に驚いて、もう一度見入ると「だろ?この素敵なお兄さんが後ろに乗せるから ライダースーツも着てちょうだい」とウィンクする。

「はぁ?」

 声がでた。

「あれは! ルパン三世の峰不二子とか着るものでしょ?」
「うーん。そうね。イメージ大事ね。なのでジッパー胸元まで少し下げ気味希望」
「あのね! 私の体型では、絶対に無理でしょうがぁ!」
「だからダイエットして。それ想像したら笑えて早く元気になれる」

 むくれる私に顔を紅くして笑った。

 私は二輪の後部席に乗る事も、ライダースーツを着る事もなかった。

「シャボン玉」は小さくして、風に乗せるように吹く。少しでも長く地上を楽しませたい。

「雨」の歌は 思い切りふざけて歌う。「下手くそ!」と誰かが笑ってくれるような気がするから。

 バイクは乗らない。向こうで乗せてもらう事に決めているから。

 白衣のようなモクレンが花開く頃。走り行くバイクを見つけると、未だに景色が滲む。

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