リョウの想い〜カナ&ショウタ*スピンオフ〜

この作品は、カナ&ショウタシリーズのスピンオフです。今までのお話は以下のリンクにあります。

穏やかな影〜cymbals〜
癒しのバラ〜Healing rose〜
大人のハロウィンデート〜カナ&ショウタseason.3〜
ヌーヴォーとヴィンテージ〜カナ&ショウタ✴︎ season3-1
ヌーヴォーとヴィンテージ〜カナ&ショウタ✴︎ season3-2
ワイン色の恋 ショウタ&ミサキver.

 リョウの想い〜カナ&ショウタ✴️スピンオフ〜

 またこの街に戻れるなんて思ってもみなかった。どんな顔でキミに会えば良いんだろう。何にも話せなかった俺は、逃げるようにキミの前から姿を消した。せめて言い訳させて欲しかった。決して嫌いになったわけじゃない……。

 そんな思いを抱えながら、リョウは5年ぶりの会社を訪れた。懐かしい顔ぶれが、部長になった彼を出迎える。みんな所帯を持ち、どこか保守的な感じがする。でも、少し言葉を交わすだけで、やんちゃだったあの頃に戻れる気がした。

 「本日付けでこの支部の部長を仰せ付かりました、小鳥遊リョウです。まだまだ未熟者ですが、前にも在籍していた事があるので即戦力になります! よろしくお願いします」

 盛大な拍手と共に安堵の溜息を漏らす社員たちを見て、毎日忙しく動き回る彼らの姿が目に浮かぶ。リョウは苦笑いをしながら、心の中で焦っていた。辺りを見回すが、一番会いたい人がいない。まさか、辞めてしまったのだろうか。その時、そばにいた課長が女子社員に声をかけた。

 「そぉいえば、カナくんはどこに行った?」
 「資料室に行くって言ってました」

 カナはいるんだ。良かった。リョウは嬉しさのあまり、にやけそうになる顔を必死に抑えた。資料室か。確か、地下にある急な階段を降りなきゃいけないんだよな……。そう思いながら、挨拶を早々に切り上げて資料室に向かう。

 地下の廊下が薄暗い。せめて電気の数を増やさないと。あとで総務に連絡しておこう。そんな事を考えていたら資料室の入り口が見えてきた。開けっ放しのドアから部屋に入る。あれ? 誰か倒れている? もしかして……。不安な気持ちを抱えながら声をかけた。

 「おい、しっかりしろ!」

 体が異常に冷たい。顔色も真っ青。かなり時間が経っているかも知れない。軽く肩を揺さぶってみる。手が微かに動いた。

 「カナ。もぉ大丈夫だ」

 誰よりも仕事をして無茶をするのは昔と変わらない。リョウは腕の中にカナを抱きながら、幸せな日々を思い出していた。

 「カナ先輩! 大丈夫ですかっ!」
 「キミはたしか……ミサキ君だったね。そこの資料持って、オレと一緒に医務室まで来てくれ」

 抱き上げた瞬間、驚いた。こんなに軽かったのか? ほんと、ごめん……。彼の胸の中に罪悪感が広がる。医務室のベッドに寝かせ、部屋を出ようとした時、聞き覚えのある声がした。

 「お久しぶりね、リョウ。何も、逃げる事ないじゃない」

 レイコか……。彼女とは同期入社。年も近いせいか、何かとウマが合う奴だった。だが、こいつのせいで俺とカナは……。奥歯をぐっと噛み締めながら、リョウは冷たく言い放つ。

 「何も話す事はない。お前のせいで……」

 怒りが込み上げてくる。でも、結論を出したのは自分だ。俺に彼女を責める資格はない。自分にそう言い聞かせると、拳を強く握りしめたまま医務室をあとにした。

 「ちょっと、やりすぎたかしら……。でもリョウ、貴方がいけないのよ? あんな子と付き合うから。さて、これからどうしようかしら? 楽しみね」

 ベッドで眠るカナを遠目で見つめながら、レイコは不敵な笑みを浮かべていた。

 リョウが事務所に戻ると、課長が話しかけてきた。

 「部長〜♪ もう一人、紹介したい女の子がいるんですが、今大丈夫でしょ〜かね?」

 飲み屋の親父のような言い方に思わず笑ってしまう。こういうキャラクターなら上手くやっていけそうだ。心の中でそう思っていると、ドアをノックしてカナが入ってきた。特に驚きの表情を見せない様子から、自分の事はレイコから聞いたのだろうと思った。

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 「カナ君、久しぶりだね。またよろしく頼むよ」
 「あ、はい……お願いします」
 「顔色、だいぶ良くなったね。無理するなよ」

 課長の後から部屋を出る時、彼はカナにそっと耳打ちをした。

 「さっきの事は課長には知らせない方が良いな」

 無理するなよと言われ、思わず胸が高鳴る。カナは頬を紅く染め、口元に手を当てながら言った。

 「部長! まだ体調が万全ではないので早退させていただきます!」
 
 動揺すると口元を手で隠す癖がある。早足で歩く後姿を見送りながら、昔と変わらない彼女が嬉しかった。

 外に出ると、既に日が暮れていた。車を運転しながらランドマークを見て、今日はボジョレー解禁日である事を思い出す。確か、赤は嫌いだったな……。初日からいろんな事がありすぎて疲れたけど、マスターの店にも顔を出しておくか。そんな事を考えながら赤信号を待っていると、視線の先にカナの横顔が見えた。やはりまだ体調が良くないようだ。送っていくか。信号を過ぎてカナの前で車を停め、窓を開けて声をかけた。

 「カナ君。ちょっと話がある。乗ってくれ」

 話なんてない。少しでも近くにいるための口実である。送ると言っても断るだろう。頑固だからな。そう思っていたのに、しぶしぶ車に乗り込んで来た。少し驚いたと同時に、嬉しさが込み上げてくる。会社帰りいつも二人で寄り道していた公園に行ってみよう。キミは覚えているだろうか。半分期待しながら声をかけてみる。

 「久しぶりだよな……ここ」
 「あの……お話って」

 思い出の場所に来たら、恋人だった頃に戻れるかも知れない。そんな期待をした自分が甘かった。もう、あの頃の二人じゃない。リョウは改めて現実を思い知らされた。こんなに近くにいるのに、気の利いた言葉が見つからない。

 「あの時は、本当にゴメン……」

 何言ってるんだろ。カナは、部長としての言葉を待っているのに。自分が情けなく思えた。

 「昔話をしに来ただけなら帰ります。私たちもう、上司と部下の関係だけですから……」

 急いで車から降りようとする彼女に、焦りながら言葉をかける。

 「カナ……これからしばらくの間、オレの補佐をしてほしい。君が抱えている仕事は、他の人に指示する」

 部長の肩書を使ってまでそばにいたい。職権濫用である。自分でも呆れながら、彼は真顔で言った。しかし、彼の淡い期待もむなしく、呆れたように怒った彼女は車を飛び出した。彼女の背中を見つめながら、本当に嫌われてしまった事を実感する。

 リョウの事を忘れるために、必死でキャリアを積み上げてきた彼女。彼を見る度にあの日の出来事を思い出すだろう。でも、どんなに嫌われてもいい。結婚してしまった自分が出来る事は、レイコから全力で守る事しかない。そして、いつか俺の本心を伝えたい。今でも愛していると……。

 二人で仕事が出来るように、課長に話してみよう。少しでもカナの気持ちがまた俺に向いてくれると嬉しいが……。そう思いながらも、そんなに期待はしない。

 「頑固だからねえ……」

 そう呟いて、リョウは少し笑った。

fin

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