逢瀬の時

 あなたに会いたくて、スマートフォンを手にとる私。電話帳の発信履歴には、ほとんど同じ名前が並ぶ。私がかける相手はあなただけで良い。一番上の履歴をリダイヤル。呼び出し音が鳴る。七回ほど鳴った後、あなたの声が聞こえてくる。

「もしもし、麗子(れいこ)?」

 あなたに名前を呼ばれるだけで、私の心はどきどきする。思わず電話越しに、愛の歌を歌いだす私。あなたは黙ってその歌を聴いている。

「今から会える?」

 私の問いに、あなたは「もちろん」と答える。そしてそのまま黙り込む二人。この余韻がたまらなく心地良い。「じゃあ、待ってるね」と言って電話を切り、急いで支度をする。久しぶりに彼が訪ねてくる。胸の高鳴りが止まらない。

 忙しい彼だから、急に電話して会えるとは思っていなかった。職場で嫌な思いをして、プライドを傷つけられた私。こんな私の扱い方を彼は良く知っている。どんな薬もいらない。彼に会うだけで治ってしまうのだから。

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 夕食は済ませたと言うから、軽い酒のつまみを用意する。彼は九州の生まれ。密かに手に入れた幻の焼酎を飲ませてあげよう。取引先の方からいただいたレアもの。飛び跳ねて喜ぶ姿が目に浮かぶ。

 ふいにインターホンが鳴る。彼の声を確認して「どうぞ」と招き入れる。ドアが開くや否や、彼は私の体を強く抱きしめる。痛いくらいに強い力なのに、何故かそれほど苦しくない。まるで空を飛んでいるかのような気持ちになる。

「まずはビールが良いかしら?」

 私の問いかけに、微笑みながら黙って頷く。九州男児だからか、口数は少ない。私の話を聞くだけで楽しいのだとか。そんな彼に、今日一日の出来事をマシンガンのように話す。

 中間管理職の私は、上司と部下に挟まれてストレスが多い。仕事だと思って耐えてはいるが、時には深く傷つくような言葉を受けたりする。とても一人では消化出来そうにない場合は、すぐに彼に電話をする。彼も同じく中間管理職。職種は違えど立場は同じ。私の気持ちを本当に良く理解してくれる。

 去年離婚した私は、今は独身の女。彼は離婚していないけど、奥さんとは別居中。奥さんとの仲は、すっかり冷え込んでいる。それでもやはり、世間では不倫とか略奪愛とか言われるのだろう。

「焼酎、飲む?」

 嬉しそうに頷く彼が愛おしい。彼は夏でも、焼酎をお湯で割る。彼の真似をして、私も焼酎のお湯割りを飲むようになった。

 彼が私をじっと見つめている。私も黙って彼を見つめ返す。目と目を合わせるだけで、お互いの心が通じる。静かな時間が流れる中、二つ並んだ湯飲みから湯気が立ち上(のぼ)っている。

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