穏やかな影〜cymbals〜

 「ただいま…」

 ひとりでは広すぎる部屋で、そっとつぶやいてみる。(ハァ……)思わずため息が漏れる。

 「あ…ごめん、幸せまたひとつ逃げちゃうね」

 いつも言われてたっけ。
 
 「もぅ…ショウタのバカ…。突然いなくならないでよ。わたしが人一倍寂しがり屋で怖がりなの知ってるよね。」

 彼との出会いは去年の4月。わたしの勤める会社の新入社員だった。わたしより5才も年下。いつもイライラしているわたしにまっすぐな瞳で果敢に挑んでくる。そんな姿が可愛くて、なんとなくからかってしまう。他の新人くんはと言うとわたしが席を離れた隙に机にメモを残して伝える。ホント今どきの若い子たちは…。わたしだって、好きでイライラしてるわけじゃない。上司の無理難題を処理したり、部下の仕事もフォローする。体がいくつあっても足りない…。

 そんなわたしにいつもキミは「大丈夫ですか?」と声をかけてたね。人の心配はいいから自分の仕事しなさい!と言われても全くめげるそぶりもない。それどころかいきなり変顔してわたしを笑わせる。キミは私が怖くないのか?聞けば、お姉さんが2人いるらしい。なるほど…どこか母性本能をくすぐるタイプだと思った。

 そんなある日、「カナ先輩、お願いがあるんです。僕たちの歓迎会を開いてくれませんか?」はぁ?なんでわたしが⁉️そういう事は課長に相談して…と言いたかったがまぁそろそろ3ヶ月経つことだしみんなも仕事に慣れてきた頃だよね。

 いつも会社ぐるみでお世話になっているレストランのオーナーに連絡を入れセッティングしてもらった。この日は運よく?仕事で大失敗をしてイライラのマックス!お酒の勢いも手伝って新人くんたちについ愚痴をこぼしてしまった。帰り道、送ってくれたキミに

 「ごめん…ちょっと飲みすぎたね。せっかくの歓迎会だったのにみんなにイヤな思いさせちゃった…」

 恥ずかしさと悔しさで目頭が熱くなる。

 「大丈夫ですよ。みんなカナ先輩の大変さ分かってますから。」

 キミの「大丈夫」を聞くと何故かほんとにそんな気がしてくる。こらえていた涙が一気にあふれ出す。

 「僕の前では強くならなくてもいいですよ。いつも姉たちに鍛えられているので。」

 頼もしい言葉につい甘えてしまった……。

 この日を境にわたしたちは付き合うようになった。いままでどおりの怖い先輩と、めげない新人くんの関係ももちろん継続。みんなには絶対ナイショ。仕事がやりづらくなるから…

 いつもデートはこの部屋。可愛いカレのために美味しい手料理を作ろう!なんて最初は張り切っていたが、

 「仕事はスゴイ出来るのに、料理は…ですね」

 どうせわたしは仕事しかできないオンナですぅ。

 「ねぇねぇ、ショウタくん。お願いがあるんですが…。夜中にホラー映画むりやり付き合わせる の止めてくれませんかぁ。ひとりでトイレに行けないので…」

 楽しかった日々を思い出すと、どうしてもため息が出る…。どんなに思ってもカレがこの部屋に帰ることはない…。

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 今日は疲れたから早めに休もうと明かりを消した途端、辺りの空気が一変した!! 窓一面に映る満天の星空と月明かり。

 「うわーきれい!!」

 自分の部屋なのも忘れ、しばらく見入っていた。

 「そういえば、前はよく二人でこの景色見ながら飲み明かしたね。」

 ふと窓越しに横を見ると1人の少女が立っている。(え…。どーゆーこと…?も、もしかして……⁉️)

 「だ、だれ!!」

 思い切って声をかけた。よく見ると、寂しげな笑顔でこっちを見ている幼い日のわたし。

 「どぉしよっか……?」

 思わず少女に語りかけた。突然、けたたましいクラクションの音で現実に戻された。

 ねぇ…今、どこで…何してるの?…
 
 空想と現実の間で目が回りそう。

 キミとの思い出は、楽しくて幸せなものばかりではなかったけど、わたしの心の大半を占めている。

 どうしたらいい?忘れたほうがいい?
 
 でも、ショウタはよ〜く知ってるよね?わたしはふつうが好きじゃないってこと。

 前に話したの覚えてる?学校の演奏会で、どうしてもシンバルがやりたくて重いから男子の方がイイね。って先生に言われたけど毎日腕立て伏せして体力もつけて男子よりも上手に演奏したこと。そしたらキミはこう言ったの。「勇ましい女の子ですね」ってwww。

 ある日の朝礼前…わたしのデスクに一本の電話が入った。ショ…ショウタが……?

 「なに、これ。どーゆーこと?人違いだよね。」

 カレのスマホにかけてみる。

 「もしもし…カナ先輩?…ゴメン…僕…」

 いつもより元気はないが、たしかにショウタの声。

 「ショウタ?よかった〜。もうすぐ朝礼だよ。今どこ?なんか今ね、変な電話……」

 気づけば、まっすぐにわたしを見つめて微笑んでいる、リボンをかけられたカレの写真が目の前にある。

 おねがいだから「大丈夫ですよ。僕はずっとカナ先輩のそばにいます。」っていつもみたいに言ってよ……。だけど、「僕の事は忘れてカナ先輩の幸せを見つけてください。」ってキミは言うのよね。仕事しかできないオンナだからそれは到底ムリよ。www

 でもね…心配かけたくないからショウタがいつも慣れた手つきで作ってくれたハンバーグも肉じゃがも上手くなるよ。怖い怖いホラー映画も頑張ってひとりで見られるように強くなる!

 だけどやっぱり寂しすぎる。ショウタがイイ…。ショウタに会いたいよ…だからわたしがおばあちゃんになる前に早めに迎えに来てね。

〜fin〜 作:大河内ミュウ 2021.10.14

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