今日は12月24日。街はクリスマス一色。商店街にはクリスマスソングが流れ、サンタクロースの恰好をしてケーキを売る声が聞こえてくる。病院からの帰り、足早に歩く岸川雪乃を見つけて走り出す小さな女の子。彼女は雪乃に追いつくと、ぶら下げていた買い物袋を引っ張った。
「ねえ、お姉さん」
「あら、かおるちゃん」
「サンタさんって本当はいないの?」
「えっ? ど、ど、どうして?」
「今日、幼稚園でみつるくんに言われたの。本当はサンタなんていない。パパがプレゼントを買ってくるんだよって」
結婚して三年目の雪乃。まだ子どもはいない。隣に住むかおるの事を、我が子のように可愛がってきた。隣の家の夫婦がサンタクロースについてどう話しているのかはわからない。自分自身は、小学校高学年の頃にわかったような気がするが、早い子は幼稚園でも悟ってしまうのかも知れない。純粋で真剣な瞳に見つめられ、雪乃は答えに困ってしまう。しばらく悩んだ後、ニコッと笑ってこう言った。
「かおるちゃん。サンタさんはいるよ。うちにもちゃんと、サンタさん来るもん」
「え、本当? お姉さんとこにも来るの?」
「うん」
「そうなんだ。やったー! サンタさんは本当にいるんだね」
雪乃の手と繋がれた小さな手を大きく振りながら、ジングル・ベルを歌うかおる。温かい気持ちになりながら、雪乃はあの日のクリスマスを思い出していた。
「雪ちゃん……」
「なあに、京ちゃん」
「あ、あのさ……」
ケーキを食べようとしていた雪乃に、京太郎が声をかける。付き合い始めてもうすぐ三年。二人はクリスマスの夜を京太郎の部屋で迎えていた。きちんと座り直してかしこまる京太郎。彼の真剣さが伝わり、雪乃も自然と緊張してしまう。
「どうしたの? あらたまって?」
「う、うん。実はあの、雪ちゃんに渡したい物があって……」
「え、クリスマスプレゼント? わーい、ありがとう。私もあるよ、はいこれ!」
バッグから取り出したのは手編みのマフラー。濃い茶色の皮の手袋とメッセージカードも添えて手渡す。
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「雪ちゃん、ありがとう。すごいね、上手に出来たね。大事にするよ」
「うん、結構時間かかったけど、喜んでもらえて良かった」
「お、俺もさ、君にプレゼントがあるんだ……」
「わーい、何だろう。楽しみ」
「こ、これなんだけど。受け取ってもらえるかな?」
「え? これって、もしかして……」
手渡された箱に入っていたのは、指輪だった。
「ゆ、雪ちゃん、俺と……け、け、結婚してください」
「京ちゃん……」
雪乃の大きな瞳に涙が溢れる。初めて出会った頃から今日までの思い出が蘇る。シャイな京太郎はなかなかプロポーズしてくれない。友人たちがどんどん結婚していくのを眺めながら、寂しい気持ちが募(つの)っていった。今か今かと待ち続けた彼女に、聖なる夜に贈られた素敵な贈り物。彼女にとって京太郎はまさにサンタクロースだった。
翌年の春に結婚。毎年のクリスマスは二人にとって重要な記念日になった。京太郎はいつもサンタクロースの恰好をしてプレゼントを渡す。
「雪ちゃん、メリークリスマス!」
京太郎は今年も、サンタクロースの恰好をしている。彼が渡したのは首用マッサージ器。
「京ちゃん、ありがとう。この前私が、これ良いねって言ってたやつだね」
「うん。肩こりで大変だから、これで元気になってね」
「ありがとう。あのね、京ちゃん。私からもプレゼントがあるんだけど……」
「え、本当? 無理しなくて良かったのに」
「私のプレゼントは、お金かかってないよ」
「そうなの? 何だろうなあ」
「あのね、京ちゃんが一番欲しかったもの」
「一番欲しかったもの?」
「今日、病院行ったらね、奥さん、おめでとうございますって」
「え? もしかして、赤ちゃん?」
「そう。私たちの赤ちゃん!」
「やったね、雪ちゃん。ありがとう!」
雪乃を抱きしめて大喜びする京太郎。聖なる夜に、サンタクロースは素敵な贈り物を届けてくれた。
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