初めてのお正月〜カナ&ショウタ*season5

 2022年1月3日。年明け初めてのデート。元旦と2日は二人とも家族と過ごし、辛うじてまだお正月の雰囲気が残るこの日に初詣に来た。

「カナさん。明けましておめでとうございます。どうぞ今年もよろしくお願いします。」
 背筋をピンと伸ばし、きっちり30度に腰を曲げて新年のあいさつをする。
「ショウタくん。ご丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。」
 固苦しいあいさつに思わず笑った。

「ラブリーは元気にしてますか?二人で出かけるとお留守番なんでかわいそうですよね。」
「そぉなのよね。だから今朝ペットホテルに預けてきたの。」
「じゃあ早くお詣りしてお迎えに行きましょ。」

 神宮へ続く真っ直ぐな道を、私の手を取って歩き出す。
「ちょ、ちょっと歩くの早いよぉ」
 引っ張られるようにしてやっとの思いでついて行く。

「ぁ!ごめんなさい。早くラブリーに会いたくて…。大丈夫ですか?」

 まるで保育園に子供を預けている父親のよう。きっと娘がいたら激甘パパになるわね。

「大丈夫よっ。行こう。」

 左手に鳥居が見えてきて軽く一礼をしたあと端を通ってくぐる。ここは、都心からあまり離れていないにもかかわらず明らかに空気が違う。参道の脇にたくさんの木々がアーチを作っているせいか日差しもあまり届かない。ひんやりとした空気感が参拝に来た人々を厳粛な気持ちにさせるのかも知れない。二人とも何も話さず神聖な雰囲気に身を任せていた。

 手水舎(てみずしゃ)で口と手を清め神前へ。残念ながらお正月の三ヶ日は参拝客が多いからブルーシートが敷かれたスペースにお賽銭(おさいせん)をいれる。二礼二拍手のあとお願い事をして一礼をし横を見ると、まだ手を合わせている。混んできたのでそっと列を抜けだして待っていると、

「もぉ、急にいなくならないでくださいね。」
「なんか真剣にお願い事してたから声かけにくくて…」
「ちゃんと自分の名前や住所も伝えましたか?いくら神様でも何でもお見通しではないらしいですよ。」
「えっ、そぉなの?伝えてない….。」
「やっぱりね。でも大丈夫です。だって僕の願い事が叶えばカナさんのも叶いますから。」
 イタズラっぽく笑いながら、頭をポンポンされた。
「ちょ…ショ〜タ⁉️」
 かなり照れるけど、ちょっと嬉しい。

「お、おみくじ引きに行きましょ!」
 なぜかショウタの顔が赤くなってる。

 私はくじを引くとき、奥まで手を伸ばして慎重に選ぶ癖がある。おみくじも例外ではない。一番下のまだ誰も手を触れていなさそうな、そして指先に触れた瞬間「私を選んで!」と訴えかけているクジを引く。今年はショウタと一緒だから大吉がいいな。ここ何年かは「小吉」や「末吉」が多い。

「今年も下から…よし!コレ」

 ……………えっ……。凶!? 目を凝らし、もう一度よく見る。当たり前だけど何度見ても結果は同じ。まるで時が止まってしまったように動けなくなった。いつもは引いた後、良くても悪くても木に結ぶ。だけど,,,今年のは持って帰ろう。

「カナさん、どうでした?」
 ショウタの声で我に返った。
「ん?あ、あとでね。今年は結ばないでお財布に入れてお守りにする。ショウタは?」
「じゃあ僕も。考えたらおみくじって神様からのメッセージなんですよね。毎年結んでるのでいつも忘 れちゃうんです。」
「確かに!」
「ちょっと僕、交通安全のお守り買ってきますので動かないで待っててくださいね。」
「も〜子供じゃないんだから。」
 
 一人になって落ち着いて境内を見渡す。本殿をはじめ『開拓神社』や鉱山殉職者を慰霊する『鉱山神社』など、合わせて4つの境内社がある。郷土の歴史を調べて実際に訪れるとより現実味が増す。
「暖かくなったらお弁当持ってゆっくり散策するのも良いわね。」

 そんな思いを巡らせていると、ショウタが走ってくるのが見える。

「お待たせしました。寒くなってきたのでそろそろ帰りましょうか。ラブリーのお迎えも行かなくちゃ。」
「そぉだね、じゃあ家でお雑煮食べてお正月しましょ。」

 神宮を出るとまだ車が長蛇の列を作っている。
「地下鉄で正解ね。」

 部屋に戻りストーブをつけてあたたまる。

「よし!ラブリー♪もう出てきていいよ。あれ?なんかちょっと重くなったな。」
 ショウタが、抱き上げながら頬をすりすりしている。

 ラブリーはクリスマスの日に寒さに震えながら泣いていた捨て猫。貰い手が見つかるまで飼うことにしたのだ。

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「お雑煮できたよ〜。我が家はお醤油仕立てのすまし汁。」
「四角い焼いたお餅が入ってる!」
「あれ?ショウタのうちは違うの?」
「母が京都の人だったので丸いお餅を煮たのと真っ赤な金時人参も入ってますね。味も白味噌なんです。おいしい…」
 最後の『おいしい』がうれしすぎる。

「そぉなんだ。こんなに地域によって味が違うのって不思議よね。」

 今度は京風のお雑煮作ってみようかな〜♪

 軽くお腹も満たされお酒を飲んでいると
「カナさん。さっきのおみくじどうでした?」とショウタが聞いてきた。
「あ…これなんだけど。」
 お財布から取り出して渡す。

「…初めてみた。」
 さすがにショウタも驚いている。

「だよね。私も…。だから、あえて持ち帰ったの。いつでも見られるように」

「おみくじの結果ってどうしても気になっちゃいますけど、本来は上に書いてある和歌を熟読して、自分なりに解釈して生活しましょうってことらしいです。」

「じゃあ持って帰ってきたのは正解ね。メッセージちゃんと受け取らなくちゃ。」

 和歌にはこう記してある。

『すなほなる 幼な心をいつとなく 忘れはつるが 惜しくもあるかな』

 幼い頃は世間の『悪』なところを見ないで生きていけるけど、成長していろんな事を知るうちに悪い色に染まってしまうから、幼いときの素直な心を忘れずに誠実な心をしっかりと持って生きなさい、いうことかしら。

「よし。決めた!今年の目標は、『素直に生きる』にしよう。」
「カナさん、我慢しすぎですもんね。僕やラブリーの前だけでも素直でいてくださいね。な?ラブリー♪」
 や、やさしすぎるぅ。もう二人とも可愛すぎ。

 だけど、大好きな人の前ほど気を使っちゃうのよね。傷つけてしまったら…。嫌われたら…。って思うと不安になっちゃう。友人には『愛されてる自覚がないのね。』と言われた。そのとおりだと思う。

「ところでショウタのおみくじは?」
「はい。どうぞ。」

 見ると『大吉』。やっぱり神様はちゃんと見てるのね。だけど…あまり良いことが書いてない。

「気づきました?」
「う、うん。」

失物(うせもの)→いでがたし。(見つかりにくい?)
病気(やまい)→重けれど治るべし。(重い病気にかかる?)

縁談(えんだん)→他人の妨げあれど末長く思へば心のままなり。
         (ライバル出現!?でも信じてずっと思い続ければ大丈夫ってことね。)

「他人の妨げかぁ。僕は全然大丈夫ですけど、カナさんの方が心配。」
「あら、知らなかった?ショウタって意外と人気あるのよ。天然で可愛いって。」
「なんですかっそれ!でも『大吉』だからカナさんの事、悪しき事(あしきこと)から守れますね。よかった。」
 だけど…神様からのメッセージが的中してしまうことに、私たちはまだ気づいていなかった。

fin

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投稿日:2022年1月3日 更新日:

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