雨の土曜日

 待ちに待った土曜日、もうすぐ約束の一時になる。胸がドキドキして苦しい。早めに食べたお昼ご飯が揚げ物だったからだろうか。みぞおち辺りが重い気がする。

 昨夜(ゆうべ)はなかなか眠れなかった。それなのに、今朝は早く目が覚めてしまった。遠足に行くのが待ち遠しい子どもみたいだ。残念なのは、今日は朝から雨が降っている事。せっかく、彼と久しぶりのデートなのに。日頃の行いが悪いせいだろうか。

「明日の一時、駅前の噴水の前で待っていますからね」
「ええ? ああ、まあ、うん……。行けたら行くね」

 行けたら行くって言うのが気になる。行けたら行くって言うのは、大抵の場合は断り文句。私だって、行きたくない時には、行けたら行くってよく言うし。

 彼が私の事を、そんなに好きじゃないのはわかっている。彼にとって私は、何番目の女なんだろう。都合の良い時に相手してくれる女、そんな風に思っている気がする。

 だけど、それでも良い。それでも良いんだ。大好きな彼に会えるなら、何番目だって構わない。野球だって、ドラフト一位の選手が活躍するとは限らない。

 イチローはドラフト四位だったけど、世界的なスーパースターになった。私も今は低い順位かも知れないけれど、いつか一番の女になれる可能性もある。そう思うと、雨が降るぐらい何でもない。

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「何だよ、危ねえなあ。こんな所でぼーっと立ってんじゃねえよ」
「あっ、すいません……」

 ガラの悪いおじさんに怒られてしまった。私は何もしていないのに。ただ傘をさして立っていただけなのに。おじさんの方が前を見ていないのが悪いのに。悔しくて腹が立つ。もう一時半になったのに、全然来ない彼にも腹が立つ。

 遅くなるなら、連絡ぐらいくれたって良いのに。それとも、電波の届かない場所にいるから連絡出来ないのか。私の方から連絡してみたいけれど、何て言われるのかを考えると怖い。約束なんてしてないよと言われるのが怖い。

 段々と、行き交う人の数が減ってきた。時計の針は午後三時を回っている。約束は一時だったのに、もう二時間も過ぎている。ここから見える喫茶店が気になる。もしかしたら、あの店の窓際に座っている人がこう思っているかも知れない。

「あの赤い傘の人、二時間もあそこで待っているよ」

 彼にすぐに見つけてもらえるように、赤い傘を選んだのが間違いだったのではないか。赤い傘をさした女が、同じ場所で何時間も待ち続けていたら、みんな不思議に思うに違いない。

 靴下が濡れて冷たいし、立ちっぱなしで足が痛いし、腰も痛い。もう帰ろうかな。だけど、ここまできたらもうちょっと待ってみよう。四時まで待って来なかったら、もう諦めよう。あと五十分だけ待ってみよう。

 そして、月曜日に会社で会ったらこう言ってやるんだ。「三時間待っていましたよ」って。まあしょうがない。最初から来てくれるとは思ってなかったし。帰ったら、泣きながらお風呂に入ろう。それでいいや。

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