夢は叶う!

 夏の東京は暑苦しく、道行く人が背中に汗を滲ませる一方で、コンクリートに囲まれたオフィスの中は、冷房が行き届いて過ごしやすい。そんなビルの一角で、比較的楽に仕事をする社員たちを横目で見ながら、清水智子(しみずともこ)は格闘していた。

「と、取れない……」

 高級そうなカーペットについた汚れ。決して彼女が汚したわけではない。さらには、そんなに目立つ汚れでもない。しかし、生来の綺麗好きで完璧主義の彼女にとっては、どんな小さな汚れでも見逃したくはないのである。

 経験年数の浅い智子は、先輩でカリスマ清掃婦のジュンコに応援を願い出た。忙しいはずのジュンコは「了解、すぐ行きます!」と快諾し、特殊な道具を持ってきてその汚れに挑む。

 試行錯誤を繰り返しながら、窮屈な姿勢で仕事をする二人。そんな彼女たちを、通りすがる社員の人たちは不思議そうに見つめている。

「ふー、やっと終わったわ」

 かつて、カリスマ清掃婦としてメディアにも取り上げられた事のあるジュンコでさえ、仕事を完了するまでに一時間近くかかった。清掃の仕事にプライドを持って臨んでいるジュンコは、自らの完璧な仕事に満足していた一方で、智子の心の中は不思議な感覚が渦巻いていた。

 仕事を終えて自宅に戻り、湯船に浸かって疲れを取りながら、智子はぼんやりと考えていた。どんな小さな事でも気になってしまう彼女にとって、今日の出来事が頭から離れなかったのだ。

 どうにかして、もっと楽に汚れを取れないものだろうか。あのカリスマのジュンコさんでさえ、あんなに時間がかかった。まだまだ経験の浅い私だけだったら、どんなに時間がかかった事だろう。

 どんな清掃の素人でも、簡単に汚れが落とせる道具があれば、どれほど楽だろうか? そんな夢のような道具、誰か作ってくれないかなあ。

 そんな考えを巡らせながら、すっかり長風呂になってしまった智子は、急いで風呂から上がった。冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出し、乾いた体に流し込む。ドライヤーで髪を乾かしながら、日課である日記を開いて書き始めた。

 それは彼女にとって、日記であると同時に「夢ノート」でもあった。一日の生活の中で起きた出来事や問題点を書き出し、こうなれば良いなあという夢を書くのである。

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 早速、今日の出来事を書き始める。あの汚れ、本当に大変だった。あの汚れを、なんとか楽に落としたい。いや、落とす。私は絶対に落とすんだ! やった、出来た!

 智子の「夢ノート」には、実現したい夢を書く。そして、それが叶ったとして予約する。数年後には実現している、そんな前提で書くのだ。そして、夢を実現させて喜んでいる自分の姿をイメージする。

 「イメージが具体的であればあるほど、それは具現化する」ある人が言っていた言葉に、智子は不思議な魅力を感じていた。そして、その奇跡を見てみたい。そんな思いで書き始めたノートだった。

 ふと、ドライヤーの風が気になった。このドライヤーのように、簡単に手で持てて、蒸気で液体を固体に変えて吸い取る事が出来ればどうだろう。出来るだけ軽くて、しかも吸引力が強い。何となく、彼女の頭の中でイメージが膨らんでいく。

 それからも智子は、まだ見ぬ画期的な掃除道具の事で頭がいっぱいになった。仕事をしながらも、電車に乗りながらも、頭から離れる事はない。家に帰っては、夢ノートに「出来た!」「完成した!」「すごい!」「私って天才!」と書き続けた。

 一か月後、彼女は遂にある決断をする。「絶対に私が作る!」そんな強い思いを胸に、掃除機メーカーの門を叩いたのだ。

 掃除婦になる前、CADオペレーターをしていた経験を活かし、まずは契約社員として入社した。頭の中にはある程度の構想はあったが、まだクリア出来ていない問題点がいくつもあった。

 普段の業務をこなしながら、同僚たちの信頼を勝ち取っていった彼女は、少しずつ自らの夢を打ち明けていく。その壮大な夢物語に賛同していく同僚たち。そんな中、商品開発部の部長から声がかかった。

「もし良かったら、正社員になって一緒に作りませんか?」

 部長の推薦を受けた智子は正社員となり、ハンディークリーナーの開発チームに所属する事となる。同僚たちが帰ってからも、部長と二人で遅くまで仕事をしていくうちに、二人は自然と恋仲になっていった。

 同僚たちの祝福を受け、部長と結婚した智子は、二人の共通の夢の実現のために奮闘していく。そして、夢ノートを書き始めてから五年後、遂に画期的なハンディークリーナーの商品化が実現した。

 「どんな汚れもたちまち綺麗にしてしまう」夢のハンディークリーナーは、非力な女性でも使いやすく、手頃な値段という事もあって、たちまちのうちにヒット商品になった。

 それからさらに五年後、智子と二人で次々とヒット商品を開発した夫は、今や社長にまで上り詰めていた。夫の眠る横で、日課の夢ノートを開く智子は、次なる目標を考えていたのだった。

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