二度と戻らない日々

「ごめん、用事が出来て会えなくなった」
「そう、じゃあ仕方ないね」

 約束しても、会えなくなる事が増えていった。この時にきっと、私は気づいていたのかも知れない。あなたの気持ちが私から離れている事に。だけど、それを認めたくなくて、きっとそうじゃないって、自分に言い聞かせていた。

「ごめん、もう会えない」
「えっ? 会えないってどういう事?」

 まさかこの言葉が最後になるとは思わなかった。何度かけても、あなたは私の電話に出てくれない。私が送ったラインのメッセージも、未だに既読がつかない。二人が別れて一年が経つのに、私の頭の中はまだ、あなたでいっぱい。

 街を歩いていると気になる、前を歩く男性の後ろ姿。みんなあなたに見えてしまう。明らかに身長が違っても「背が伸びたのかも」と思ってしまう。横に大きな人なら「太ったのかも」と思ってしまう。金髪で長髪なら「髪を染めて伸ばしたのかも」と思ってしまう。みんなあなたにしか見えない。

 仕事の待ち合わせで立っていると、あなたが「お待たせ」って声をかけてくる気がする。仕事先からの電話だってわかっているのに、あなたが「もしもし」ってかけてくる気がする。お昼ご飯に寄ったお店で、あなたが「ご注文は何にいたしますか」って聞いてくる気がする。そんなはず、ないのに。

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 もともとは、私の一方的な片想いだった。あなたの事が好きで好きで、あなたの事ばかり考えていた。でも、勇気がなくて言えなくて。絶対に叶わない恋だって諦めていた。

 そんな私のために親友が間に入ってくれて、あなたと付き合うようになった。実らない恋だって諦めていたから、本当に嬉しかった。あなたが好きだって言ってくれたあの日から、目に入るもの全てが輝いて見えた。

 私の何がいけなかったんだろう。あなたに嫌われたくなくて、良い所ばかり見せようとしたからだろうか。あなたの言う事には全部「そうだよね」って言って、自分の意見を言わなかったからだろうか。あなたの言う通りにしていれば嫌われないと思ったけれど、それがかえって、つまらない女だと思わせたのだろうか。

 今も携帯に残っている、あなたの連絡先。電話なんてかけられないから、もう番号を変えていたとしても気づかない。今も残している、別れる前に撮った写真。二人とも笑っている。私の時間は、この時から少しも進んでいない。

「早く忘れなよ」

 私を心配して親友が言うけど、忘れられない。私の全てをかけて愛したあの人。別れているのに、もう戻る事なんて二度とないのに、どうしても忘れられない。思い出すのはやっぱり、あなたの事ばかり……。

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