真面目な人が損をしがちな社会で見たタクシー運転手の神対応

タクシー運転手の神対応にほっこりしたので紹介します。

タクシー運転手の神対応「見過ごせないんです」スーツ姿の男に割り込まれた女性は涙ぐんだ〈dot.〉

1/18(火) 16:00配信

 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。

 今回は、真面目な人が損をしがちな社会で起きたある出来事について。

 友人の話だ。雨の降る朝、いつもなら会社まで自転車で向かう道を、タクシーに乗ることにした。マンション前の交差点でタクシーを待っていると、ちょうど横断歩道の信号が青になり、対面からスーツ姿の男性がこちら側に渡ってきた。なんとなくイヤーな予感がしたが、案の定、その男性は、すーっと彼女の背後を回り、当然といった調子で彼女の右側に立ったのだった。

 一瞬のことにあっけに取られながらも彼女は男の横顔を見つめた。30代半ばくらいのフツーの顔をしたフツーのサラリーマンは、彼女の視線も十分感じているはずだが、全く気がつかないかのように彼女に背を向けると、ちょうどやってきたタクシーに手を上げた。「私が先に待っていたんですけど」と言うべきかとも思ったし、または彼がしたように男の背後から回り込み右側に立つこともできただろうが、あまりに一瞬の出来事で「あ~」という思いのまま、彼女はその場に立ち尽くした。

 すると、であった。向かってきたタクシーは男性の前を通り過ぎ、彼女の前に静かに止まった。さらに、スーッと開いた今どきのタクシーのドアの中から男性運転手が身を乗り出すように彼女に、「お待たせしました、どうぞ!」と声をかけてきたのだった。え? え? と戸惑いながらも言われるままに乗り込み行き先を告げ、車が走り出ししばらくすると、タクシー運転手が「見えてたんです」と、話しかけてきたという。

「お客さまが先にタクシーを待っていたのが、見えていたんです。信号を渡ってきた男性が、あえてあなたの手前に立つのも見えました。お客さまが、ただそれを見ていただけだったので……」

 その一言で、彼女は思わず涙ぐんでしまったという。涙の理由は自分にもよく分からないが、見知らぬ男に当然のように存在を無視されたことの痛手はじわじわと心にきていたのかもしれない。それから運転手は「ご出勤ですか?」と尋ねてきて、なんとなく世間話になり、50代半ば頃の物腰の柔らかなその運転手さんも自分の話をはじめたという。

 彼は以前、人材育成の会社に勤めていて、主に百貨店などの女性販売員の育成を手がけていたという。多くの女性たちを育ててきた経験から、真面目な女性が損をする姿をたくさん見てきたという。特に組織の中では、真面目で正直なあまりに「要領が悪い」と言われるような人が報われないことが多々ある。だから、と彼はこう言うのだった。

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「真面目な女性がずるい人に損をさせられてしまう。目の前でそういうことが起きるのを見過ごすわけにはいかないんです」

「見過ごすわけにはいかないんです」と言われたとたん、彼女は車内で声をあげて泣きたいような気持ちにかられたという。

 というか、私にその話をしてくれているとき、彼女も私も涙がツーツーと、こぼれて、こぼれてしかたなかった。そんな優しい人が、いることに。その人が女性育成の仕事に就いていたということにも意味を感じ、深くうなずきたい思いにもなる。

 「利益」を考えたら、タクシー運転手としては手前の男性を乗せるだろう。たとえ男の「ずる」を見ていても、手前に立つスーツ姿の男性を合理的な判断で乗せるだろう。

 女性よりもスーツ姿の男性のほうが遠距離で高額になる可能性は高く、そもそも面倒くさいクレームをつけられる可能性も高いからだ。実際、女友だちにこの話をすると、乗車拒否される女性は少なくなく、また男性運転手と二人きりの車内で不快な思いをする女性は多いことが分かる。

 乱暴な口調で話しかけたり、プライバシーに踏み込むような質問を無遠慮にしてきたり、時には甘えるような口調で声をかけられたりすることもある。女性として生きているということはそういうこと、と半ば諦めるような思いになることが“私たち”にはある。

 そういう社会で、“ソレ”が見えている男性もいるということに、私たちは安堵するように泣いてしまう。聞けば、その運転手さん自身、コロナ禍で仕事が激減し転職せざるを得なかった身だという。彼自身がうまく立ち回ることのできない人なのかもしれない。

真面目な人が損をする社会

 運転手さんのその言葉が耳に残っている。

 先週、米倉涼子主演ドラマ「新聞記者/The Journalist」の配信がNetflixで始まった。

 森友学園問題をベースにしたフィクションという体ではあるが、「関係していたら総理大臣辞めます」などという安倍晋三元首相の当時の発言はそのままドラマで使われ、亡くなった赤木俊夫さんが文書改竄を強いられ苦悩の上自死した状況、夫の最期を目にした妻の雅子さんの絶望や、その後の闘いはほぼ事実ベースで描かれている。

 ユースケ・サンタマリア演じる広告代理店の役員で内閣官房参与の男性は架空の存在だろうが、彼が東京五輪の誘致に深く関わり、「汚染水はアンダーコントロール(制御)されている」という首相発言について抗議した人物にパワハラをして声を奪っていく姿なども描かれている。

「政治に必要なのはパフォーマンス力」と言ってはばからない「現政権」を支える人々が、真面目に自分の仕事に向き合う役人や新聞記者、就活中の大学生たちの人生を大きく壊していくドラマは、この数年間で私たちが体験してきた現実そのものである。

 真面目な人が損をする。要領よく立ち回る人の不正義が力を持ち、真面目に生きようとする人々の人生が虐げられる。そのような社会で私たちは諦めることを強いられてきているのかもしれない。それでも諦めない人は、必死に生きようとする。ドラマは自死した役人の妻が国を相手に裁判を起こすところで終わる。その結果は、国の認諾という、あまりにも残酷で不誠実なものであったことをリアルに生きる私たちは知っている。でも、終わらせ方は、本当は選べたはずなのではないか。私たちは諦めるべきではないのではないか。もう、これ以上真面目な人が損をしないために。そんな空気を野放しにしないために。

[出典:タクシー運転手の神対応「見過ごせないんです」 スーツ姿の男に割り込まれた女性は涙ぐんだ〈dot.〉(AERA dot.)(Yahoo!ニュース > https://news.yahoo.co.jp/articles/d8b047eb3eed5af0913a1865ee73f1960d95aa37 ]

 真面目な人が損をする社会は、昔から変わりませんね。
 クレーマーや声の大きな人が得をする社会が住み良いとは思えません。
 だから勧善懲悪的なドラマが好まれるのでしょうね。

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