南の島の君へ

 幼稚園から大学まで、ずっと君と一緒だった。私のそばにはいつも、君がいたんだ。

「私が君のお嫁さんになるんだからね」

 五歳の頃の約束、覚えているかな? 君はいつも、私の言う事に「うん」と答えていたんだよ。あの時の返事もやっぱり「うん」だったよね。

 あの頃の君は、女の子みたいに可愛かった。幼稚園ではいつも、女の子に囲まれていたよね。みんなから「こうちゃん、遊ぼう」って言われて、「はーい」って返事していたよね。

 人一倍負けず嫌いの私は、君を誰にも渡したくなかった。誰よりも、君の事が好きだった。だから、私がお嫁さんになるって宣言したんだよ。

「こうちゃんをいじめるな!」

 小学校の頃、体が小さかった君は、いじめっ子の標的になっていた。正義感が強い私は、大勢で一人をいじめる奴らが気に入らなくて、よくケンカをしたよ。私の方が強かったから、みんな逃げていったけどね。

「ねえねえ、すごいよ。見てごらん」

 中学になって、君のお父さんが買ってくれた望遠鏡で、一緒に夜空を見ていたよね。家が隣同士で、家族ぐるみの付き合いをしていたからね。

「ねえ、数学、教えて」

 君のおじいちゃんが医者だったから、君は医者を目指した。一人娘で、実家の病院を継ぐために、私も医者を目指した。君と同じ大学に行きたかったんだ。

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「僕は、へき地医療に貢献したい」

 大学病院で働きながら、君はよくそう言ってたよね。おじいちゃんが昔、へき地医療に従事して勲章を授与されたんだよね。

「嫌だよ。私と結婚してうちの病院継ぐんでしょ?」

 私はよくそう言って、君を困らせていたよね。綺麗ごとを言っていたらやっていけない病院経営なんて、君に似合うはずもない。そんな事、よく知っているくせに、私は君を困らせていたんだ。

 そして君は今、南の島の診療所で働いている。君が行くまで無医村だったその島で、孤独な闘いをしている。私は、そんな君を誇りに思うよ。そんな君の恋人である自分もまた、誇りに思っている。

 だけど、会いたいよ。

「僕も寂しいよ。君に会いたい……好きだよ」

 電話から聞こえる君の声。好きだよの一言は、私の心を慰めてくれるけど、君に触れる事は出来ない。

「私の事、愛してる?」
「うん、愛してる」

 私を抱きしめて、君が言ったこの言葉。この言葉を胸に、私はこれからも頑張っていくつもり。

 ほら、見て。今にも降りだしそうな満天の星が瞬(またた)いている。あの三日月、君も見ているのかな。手を伸ばせば届きそうだけど、やっぱり届かない。でもやっぱり、手を伸ばしてみる。無駄なんだけど、伸ばしてみる。

 いつか君に届くと良いな。この手と、この思いが。

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