歌に込めた思い

 ギターの奏でるメロディーに乗せて、二人の声が闇夜に響く。道行く人たちは足を止めて、彼らの歌声に耳を傾けている。背の低い女性が高音を出し、背の高い男性が低音を出す。それが綺麗なハーモニーとなって、聴く人の心を癒す。

 この街で路上ライブを続けてきた彼らを応援する人も多い。作詞作曲をするのは聖子(せいこ)。主に、頑張っている人たちへの応援歌を歌っている。集まった人たちは彼女の歌に勇気をもらい、明日また頑張ろうと思いながら家路を目指す。

「ありがとうございました。元気が出ました」

 若い女性が、涙を流しながら二人にお礼を言う。職場での人間関係に悩んで、疲労困憊(ひろうこんぱい)の彼女。ふと足を止めて聞き入った彼らの歌が、胸の奥深くに沁み込んだ。笑顔で去っていく彼女を見て、聖子と裕貴(ゆうき)も元気をもらった。

「そろそろ、僕らも帰ろうか?」
「うん」

 聖子はこの日、ある決意を固めていた。今日こそはと思いながら、何度チャンスを逃してきた事か。

「あのさ……」
「えっ?」
「裕貴くんに聴いてもらいたい曲がある……」
「ああ、良いよ。聴かせてよ」

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 聖子はカバンからボイスレコーダーを取り出すと、彼に手渡した。彼がイヤホンをつけて再生を始める。それを横目で見ながら、彼女の胸は痛いほどに高鳴り始める。

 二人は高校の同級生。クラスは違うが、吹奏楽部で一緒だった。真面目で努力家、そして優しい彼に、聖子は少しずつ惹かれていった。

 中学からギターを始めていた彼。彼に少しでも近づきたくて、聖子もギターを始めた。会うたびにギターの話をするようになり、二人の距離は徐々に縮まっていった。

 ギターを教えてもらうという理由で、彼の家にも行くようになった聖子。優しくて教え方の上手い彼のお陰で、どんどん上達していった。

 やがて二人は将来について考えるようになり、音楽を仕事にしたいと思うようになった。そして友だちの前で歌うようになり、少しずつ応援の輪が広がっていった。

 バンド仲間として大切な存在には違いない。しかし、日を追うごとに彼は、聖子にとってそれ以上の存在になっていく。好きで好きでたまらない。一緒にいるだけで胸が苦しくなる。そんな感情がどんどん強くなる。

 気持ちを打ち明けたい。わかってもらいたい。でも、気持ちを伝えてしまったら、今の関係が崩れてしまうかも知れない。それが怖くて、今まで言えなかった本当の気持ち。

 聖子は思い切って、その気持ちを歌に込めた。彼への思いを綴(つづ)った愛の歌。その歌を彼が、今まさに聴いている。胸のドキドキを抱えながら、聖子はただ祈る事しか出来ない。君に届け、私の思い。

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