芥川龍之介 小説 独自解釈「病牀雑記」

引用:青空文庫 芥川龍之介「病牀雑記」

 芥川龍之介先生の書いた小説「病牀(びょうしょう)雑記」について考えてみたいと思います。これは大正14年10月に発表されました。芥川先生は、1921年(大正10年)に海外視察員として中国を訪れており、日本に帰国してから心身が衰え、神奈川県の湯河原で療養しています。神経衰弱、腸カタルを患ったとありますから、この頃から床(とこ)に臥(ふ)す事が多かったのでしょう。

 この作品は、1から10まで、それぞれ数行のメモ書きのようなものを書いた、まさに雑記です。小説とは呼べないかもしれませんが、これもまた芥川作品に違いないと思います。

 まず一を見てみます。病気療養中で暇(ひま)な事から、さまざまな雑誌に載せられた小説を15作くらい読んでいます。「滝井君の「ゲテモノ」同君の作中にても一頭地(いっとうち)を抜ける出来栄えなり」と言っています。ここに登場する滝井君とは、瀧井孝作(たきい・こうさく)の事でしょうか。この人は芥川先生の3年後輩です。「ゲテモノ」と言う小説が、彼の作品の中でも群を抜いて素晴らしいと絶賛しています。この年の9月に発表された小説の中でも一番だろうと評しています。

 二を見ますと「里見君の「蚊遣(かや)り」もまた、10月小説中の白眉(はくび)なり」とあります。
里見君とは、里見弴(さとみ・とん)の事でしょうか。この人は芥川先生の3年先輩です。「蚊遣(かや)り」と言う小説が、10月の小説の中で特に優れていると絶賛しています。

 三では「旅行中に病気になる事は珍しくはない。今回も、軽井沢での寝冷えが原因だった」と言っています。最も苦しかったのは、中国に渡る前に下関の宿屋で倒れた時の事。たかが風邪だったのに熱も容易に下がらず、解熱剤によるアレルギー反応による湿疹が出て、宿の女中に梅毒患者のように見られたようです。
 
 四では、「彼は昨日(さくじつ)「小咄(こばなし)文学」を罵り、今日(こんにち)、恬然(てんぜん)として「コント文学」を作る」と書いています。彼とは誰の事なのかわかりませんが、見舞いに来た作家仲間でしょうか。昨日「小咄(こばなし)文学」を罵った彼が、今日は平気で「コント文学」を作っている。こだわりのない彼だからこそ、健康でいられるのかなと考えているようです。

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 五では、小穴隆一(おあな・りゅういち)と佐佐木茂索(ささき・もさく)が登場します。二人とも、芥川先生の3年後輩です。これは、二人が軽井沢の宿屋で飯を食べている場面です。小穴隆一が飯を五杯食べて、なおも女中に「お代わりを少し」と頼むのを見て、佐佐木茂索が「まだ食べる気か」と言います。

 小穴は「手紙の封をするんだ」と言い訳しますが佐佐木は信じません。「じゃあ、ヤマト糊(のり)にするわ」と言うと、「ははあ、糊(のり)でも舐める気だな」と言った話です。

 六は、友人たちとビリヤードをしていると、年下の男性が仲間に入れてくれと言ってきて、芥川先生、小穴氏、佐佐木氏にはぞんざいな言葉遣いの彼が、佐佐木氏の奥さんには丁寧な言葉で接すると言う話です。

 七は「軽井沢には芭蕉の句碑がある」という話です。

 八は、軽井沢にある骨董屋の主人が使った英語の話。日本語にすると「“これ、桐の箱”はとても良い」。芥川先生は英語の専門家だけに、気になったんでしょうね。

 九は、室生犀星(むろう・さいせい)が登場します。この人は芥川先生の2年先輩です。群馬県の碓氷(うすい)峠から妙義山(みょうぎさん)を見た室生氏が「妙義山と言う山は生姜に似ているね」と言った話です。

 最後の十は「10まで書こうと思いながら、熱が出てしまったので書けなかった」と締めくくっています。

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投稿日:2021年12月17日 更新日:

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