「ねえねえ、みっちゃん」
「なあに、けんちゃん」
「昨日さ、子どもたちを寝かせる時、桃太郎を読んだんだけどね」
「うん、桃太郎ね」
「あれさ、男の子だから桃太郎だけどさ、女の子だったらどうしたのかな?」
「女の子? そうねえ、やっぱり、桃から生まれた桃子ちゃんじゃない?」
「桃子、そうだよねえ。桃美とか桃代とか桃香とか桃菜とかいろいろ考えられるけど、桃子が一番しっくりくるよね」
「意外にさ、昔の人だから『お桃』かも知れないよね」
「おー、みっちゃん、それ良いかも。お桃、良いね。お桃だよ、やっぱり」
「おじいさんとおばあさんは、『お桃や』って呼んでたかもね」
「そうそう、それでさ、近所に住む幼馴染の貫太郎くんなんかが『お桃ちゃーん』なんて遊びに来たりしてね」
「もし今みたいにキラキラネームがあったらさ、桃と書いてピーチと読ませたかもね」
「おー、みっちゃん、それ良いね。それからさ、話は変わるけど」
「はいはい、何でしょうか?」
「もしお桃ちゃんが鬼退治に行くとしたら、どうやって行くんだろうね」
「お桃ちゃんが鬼退治? お桃ちゃんは勇ましい女の子なのねえ」
「うん。きっとお桃ちゃんは、責任感が強くて義理人情に厚い、姉御肌だと思うんだよね。だから、さっき出てきた隣に住んでる貫太郎くんとか、貫太郎くんの弟の治郎吉くんとかが子分みたいになってるんじゃないかな」
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「貫太郎くんと治郎吉くんねえ」
「うん。だけど、二人とも喧嘩には自信がない」
「へー、じゃあ、どうやって鬼退治するの?」
「おそらく、鬼が使う水源に毒を入れちゃう。そして誰もいなくなった……」
「えー? 怖いね」
「そう、だから、この話はボツになったんだよ」
「お桃ちゃん、恐るべしだね」
「そう、お桃ちゃんは、自分の手は汚さずに、貫太郎くんと治郎吉くんを実行犯にしちゃうんだろうね」
「なんと? 二人はやっぱり、お桃ちゃんの事が好きなの?」
「そう、愛するお桃ちゃんのために、二人は危険な任務に挑むんだよね。そして、金銀財宝を舟に積んで帰ってくる……」
「なるほど。じゃあ、その後、お桃ちゃんと貫太郎くんと治郎吉くんはどうなるの? もしかして、兄弟で一人の女性を奪い合うという話なの?」
「いやー、それがさ、お桃ちゃんには他に好きな男がいるんだよね」
「えー?」
「それでさ、お桃ちゃんが二人のために用意した豪華な食事には、毒が仕込まれていて……」
「えーーー?」
「あまりにも恐ろしい結末に、この物語はお蔵入りになったとかならないとか」
「なるほどね」
「まあ、そんな話でした」
「了解」
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