「ねえねえ、どんな曲?」
君のいたずらっぽい笑顔に、僕はどうにも弱いんだよなあ。どんな曲って聞かれると、全部答えてしまいそうだ。
「それは、最後まで聞けばわかるよ」
そう、これは、君に贈る愛の歌。恥ずかしがり屋の僕には、面と向かったらとても言えない言葉でも、歌でなら伝えられる。ずっとずっと、心の中に温めていたこの思いを、今日君に伝えるよ。
「でもさ、鈴(りん)ちゃん、いつからギター習ってたの?」
「いや、習ったというか、独学で……」
「もしかして、女の子にモテようと思って?」
「うーん、それは何とも言えないなあ……」
そりゃもう、君のために決まっているじゃないか。君に振り向いてもらうために、一生懸命に練習したんだよ。
「鈴ちゃんって、どんな女の子がタイプなの?」
「えっ? タイプ? そ、そうだねえ……」
もう、どうしてわからないのかなあ。みっちゃん、君みたいなタイプが好きなんだよ。僕は、子どもの頃からずっと、君だけを見てきたんだ。
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君は、あのアイドルが好きだって事はわかっている。この前だってコンサートに行ってきたよね。ファンクラブにも入っているって、この前誰かと話していたのを聞いていたよ。
僕たちは、幼稚園から高校までずっと一緒だった。きっと、君にとって僕はただの幼馴染なんだろうね。仲良くしてくれるのは嬉しいけど、このままずっと、ただの友だちのままでいるのはどうなんだろうって、最近思うようになったんだ。
だから、君への思いを歌にして、君に届ける事に決めた。僕がどんなに君を愛しているかって事を、伝えようと思う。自分で言うのもなんだけど、僕は割と歌は上手い方だと思っている。言葉の選び方にだって自信はあるから、後はメロディーかなあ。
やっぱり愛の告白には、バラードが良いと思う。切ない声で、思いきり熱唱しようと思うんだ。そうは言っても、近所迷惑にならないようにしないといけないけどね。
ごちゃごちゃ考えてないで、もう開き直っていこう。当たって砕けろだ。上手くいくかどうかなんて、やってみなけりゃわからない。たとえ大恥かいたとして、笑ってごまかせばなんとかなるさ。
「まあとにかく、今日は僕の新曲発表会にようこそいらっしゃいました」
「とは言っても、観客は私一人だけどね、ははは」
「では、聴いてください」
君のために作ったんだから、君だけに歌いたい、なんて事は、恥ずかしくて言えないけどね、ははは。
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