芥川龍之介 小説 独自解釈「谷崎潤一郎氏」

引用:青空文庫 芥川龍之介「谷崎潤一郎氏」

 芥川龍之介先生の書いた小説「谷崎潤一郎氏」について考えてみたいと思います。これは、ある初夏の午後に、芥川先生と谷崎潤一郎先生が、東京の神田を歩いていた時の話です。1886年生まれの谷崎先生は一高から東京大学に進み、学年では芥川先生の5年先輩になります。谷崎先生は、1923年の関東大震災の後、関西に引越します。そう考えますとこの話はそれ以前、芥川先生が20代の頃かも知れません。

 この日、谷崎先生が着ていたのは、黒い背広に赤い襟飾(えりかざ)りです。襟飾りは洋服の襟を飾るもの、女性であれば首飾りやブローチですが、谷崎先生は男性、しかも「赤い襟飾りを結んでいた」と書いてありますから、ネクタイなのでしょう。そのネクタイについて、芥川先生はこう書いています。
 
 「僕はこの壮大なる襟飾りに象徴せられたるロマンティシズムを感じた。もっともこれは僕ばかりではない。往来の人も男女を問わず、僕と同じ印象を受けたのであろう」

 「壮大なる襟飾りに象徴せられたるロマンティシズム」とは何でしょうか? ロマンティシズムは英語です。日本語ではロマン主義になります。

 ロマン主義は、古典主義やキリスト教的教条主義の対照的な考え方です。キリスト教会の伝統に縛られ、個人の自由を無視されてきた人たちが、個人の自由な表現を重視するようになったものです。谷崎先生が着ていた黒い背広に、赤いネクタイをしていたらかなり目立ちます。ネクタイが浮かび上がるように見えたのではないでしょうか?

 芥川先生が「すれ違う人がみんな谷崎先生を注目している」と言ったら「ありゃ君を見るんだよ。そんな道行きなんぞ着ているから」と谷崎先生は言いました。道行きとは、着物のコートの事を言います。初夏の頃と言いますから、谷崎先生には暑そうに見えたのかも知れません。

 あるいは「親父の道行き」と芥川先生が言っていますので、まだ20代の青年が着るには年寄りっぽく見えたのかも知れません。もし谷崎先生が蝶ネクタイだったとしたら、上下の黒にワンポイントの赤が目立ってかなりオシャレに見えた事でしょう。「一輪の紅薔薇に似た非凡なる襟飾り」と表現していますので、やはり蝶ネクタイだったのではないかと推測します。

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 芥川先生は谷崎先生の事を「ロヂックを尊敬しない詩人」と言っている事から、自分自身を伝統を重んじる古風な人間だと感じ、谷崎先生はその反対だと考えているのではないかと思います。

 その後二人は喉が渇いたため、あるカフェに入って飲み物を注文しますが、飲み物を注文した後も、谷崎先生の喉元の赤いネクタイが気になって仕方ありません。それがまるでロマン主義を強調する「のろし」のように見えたのでしょう。そして、カフェの女性店員がコップを持ってテーブルに来た時、谷崎先生の胸を見てこう言いました。

 「まあ、いい色のネクタイをしていらっしゃるわねえ」

 炭酸水を飲み終えて席を立つ時に、芥川先生は彼女に50銭のチップを渡そうとしました。しかし谷崎先生は、チップをやると言う行為を軽蔑しています。この時も、芥川先生を嘲笑(あざわら)ってこう言いました。

 「何にも君、世話にはならないじゃないか?」

 そう言われながらも、芥川先生は彼女にチップを渡しました。その理由として「ただ炭酸水を運んでくれたからではない。赤い襟飾りに関する真理を天下に挙揚してくれたのである」と言っています。

 谷崎先生本人にしてみれば、何の違和感もなくつけてきたであろう赤いネクタイ。当時の人にしてみれば、赤いネクタイをするのは勇気のいる事だったのではないでしょうか? それを見て誰もが驚き、言いたかった事を彼女が言ってくれた。それに対する感謝の意味を込めたチップだったのだと思いますが、皆さんはどう思いますか?

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投稿日:2021年12月12日 更新日:

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