占い師の独り言エッセイ「愛着障害」
「愛着障害」と言う言葉をご存じでしょうか? 「愛着障害」とは、養育者との愛着が何らかの理由で形成されず、子どもの情緒や対人関係に問題が生じる状態を言います。主に、虐待や、養育者との離別が原因で、母親を代表とする養育者と、子どもとの間に、愛着がうまく芽生えない事が原因です。
乳幼児期に、養育者ときちんと愛着を築くことが出来ないと、「過度に人を恐れる」あるいは「誰に対してもなれなれしい」といった症状が現れると言われています。
寺山修司さんが遺した同名長編小説の映画化作品で、菅田将暉さんとヤン・ イクチュンさんが主演の「あゝ、荒野」前後編を観ました。出てくる主要な登場人物みんな、愛着障害を抱えているように感じました。ここからは、映画「あゝ、荒野」のネタバレが含まれます。映画を観ていない方はご注意くださいませ。また、映画を観るのに際して、参考にされても良いかも知れません。
菅田将暉さんが演じたのは、父親が自殺して母親に捨てられた新宿新次。ヤン・ イクチュンさんが演じたのは、母親が亡くなり父親に虐待され続けたバリカン建二。木下(きのした)あかりさんが演じたのは、売春で生活していた母親を捨てた芳子。彼らと同時並行で登場する、自殺志願者たちと自殺防止サークルの面々もまた独特の存在感があり、みんな愛に飢えていた人たちでした。
主人公の新次と建二の境遇はとても似ています。二人は人生の再出発のため、同時にボクシングを始めます。新次は、自身を少年院に送った裕二に復讐するためで、リングの上で裕二を合法的に殺すことに執念を燃やします。一方の建二は自分を変えるためで、吃音と赤面対人症に悩み、内気な性格を克服するためにボクシングを始めます。
ボクシングは、相手を倒さない事には上に上がれません。倒すために必要なのは相手を憎むこと。詐欺など、裏の世界で生きてきた新次は、相手を憎んでどんどん強くなりますが、優しい性格の建二は、対戦相手を憎むことができません。建二は愛されることを望み、人とつながることを望んでいましたが、簡単にはできません。元自衛官の父親に殴られ続けて生きてきた人生だからです。
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建二はボクシングで、人とつながることができると信じていました。建二と父親をつなげていたのは「殴る」「殴られる」の関係だったからです。まさにボクシングは「殴る」「殴られる」スポーツでした。建二はたった一人の親友である新次が好きで、新次と「つながりたい」と思っていましたが、同じジムにいる限り対戦する事はできません。そのため別のジムに移籍して、新次とリングの上で対戦することを希望します。
あるとき新次は母親から、建二は「父を自殺に追いやった男の息子」だと聞かされましたが、新次もまた、たった一人の親友である建二を憎むことはできません。しかし、強くなった建二から対戦相手に指名され、二人は闘うことになります。
実践から遠ざかっていた新次は、建二に勝てる状態ではありませんでしたが、自分とつながることを願ってジムを飛び出した建二の気持ちはよくわかっています。そして父親の自殺によって母に捨てられ人生が狂っていったこと、その原因が建二の父親だということも知っています。
「殴る」「殴られる」でしか人とつながれない不器用な建二を愛おしく思う新次。そして自分もまた、父の自殺の原因に決着をつけない限り再出発できない。複雑な思いを抱えながら、新次は建二と闘うことを決意します。
リングの上で壮絶な殴り合いをする二人の様子を、がんで余命幾ばくもない建二の父が「見えない目」で観戦しています。
試合の途中で建二の父は、座ったまま絶命します。建二は父の死を知らないまま父の後を追うように、まるでサンドバッグのように80発以上も殴られ続けます。
試合が終わり、医師が顔に白い布をかけ、死亡診断書に書いた名前は「二木建……」。それは父の名前「建夫」なのか、それとも「建二」なのか。菅田将暉さんが第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞したこの作品、前後半合わせて5時間とかなり長い映画ですが、関心のある方はご覧になってみてください。
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