欠伸(あくび)をしながら、首をぐるりと回して「うーん」と唸(うな)る。連日の残務に、疲労の色と睡魔を隠せない。
『エアコン温度低すぎるかな? 自然風にしようか?』
「いや」
『辛そうだよ』
肩に手をかける。
「やめて。肩の揉(も)み返しは仕事に差し障(さわ)る。明日もハードなの」
好意を無にされた。それでも小さな欠伸の連発。
『シエスタとしゃれこんだら?』
「いやぁ。せっかくの休みが勿体(もったい)ない」
素直じゃない。そんな言い方しなくてもいいのに。『ふーん』と、あからさまにそっぽを向いてみせる。
「じゃぁ少しだけ。お試し」
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こちらの様子にクスクス笑いながら背中を向ける。肩首の付け根に小さなしこり?
『コリコリしてる。ナニコレ? 揉(も)みほぐしていいでしょうか?』
「え? やめて。さっきからくすぐったくて、ほぐれているのかさっぱりわかんないの」
『なんだと?』
親指に力を込めて少し盛り上がっている所をピンポイントで加圧する。
「あ、つぅ。ちょっと痛いけど、今の一撃は、きいたな。頭まで抜ける感じ。んー。手のあたたかさが意外と気持ちいい」
そう言って欠伸(あくび)をかみしめた。【ほらね】少し得意げな気分で、揉(も)み返しにならないようにじんわりと力を強める。
「……くっ……うぅ……痛てっ……」
うめきながらも目を閉じてコクリコクリと船を漕(こ)ぎ始める。大きなぬいぐるみのようでなんとなくカワイイ。見まねで、理美容室の、仕上げの【ポンポン肩叩き】をしたら目を覚ました。
「あぁー、血行が良くなった感じ。おぉ。肩が軽いかも……」
最後に、肩甲骨に沿って緩(ゆる)やかに丁寧(ていねい)に円を描く。
「あれ? こんなところも凝(こ)るのか。結構な腕前だ」
前髪をクシャりとつかまれて、おでこ全開で撫(な)でられた。
『やめてー。子どもじゃないんだから』とのけぞる。治療の事を手当てとはよく言ったものだ。
『ご満足いただけたようで何より』と言った瞬間、Lineを開いている。
『えー! 肩揉(も)んだ直後なのに!まったくぅ!』と言うと「怖い顔すんなって。喉渇いたな。飲み物もってくる」と笑いながら画面をそのままに冷蔵庫に向かう。
後ろ姿に『こういう不意打ちをコントロールできるほど人間できていません』とつぶやきちらりと画面を見る。
【あーw今、お姉ちゃんに気持ちよくしてもらっていたとこ】
相手は妹だけど『微妙なかきこみ!』どっと冷や汗が噴き出る。
「あ。人のスマホみたな?」
急に耳元で囁かれ冷たいジンジャーエールの瓶を頬につけられた。
「お仕置きです。背中向けて」
小悪魔的三日月の目で見降ろして、抑揚なく言う。ばつが悪くて『はい』というしかなかった。痛い肩もみかくすぐりかを覚悟する。
背中がこそばゆい。くねくねしてると「はい、笑っていないで、大きな声で言って!」と怒ったように言う。
『くすぐったくていえません!ごめんてば!』
「ごめんとは書いてないでしょ!声小さーい」
振り向くと表情も変えない。しかたなく笑いをこらえ、一文字ずつ声にする。
『あ・な・た・が・だ・い・す・き』
恥ずかしくてくすぐったくて涙目で振り向くと、陽ざしに瓶をかざしている。
「スリルの後の炭酸ってうまいよね?」
青空を仰ぐ笑顔に目を細め、瓶に口をつける。炭酸が幸せに喉ではじけた。
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