薄暗い空から落ちてくる雪。羽毛のように「ふうわり」と舞い落ちてくるが、北の国では歓迎される客人ではない。そういう風土なのだから仕方がないけれど、これからの厳しく長い季節に想いを馳せると、住み慣れていても億劫になる。
そんな時に、必ず読みたくなる一冊。その本の中には、こんな素敵な文章がある。
☆☆
夜になって風がなく気温が零下十五度位になった時に静かに降り出す雪は特に美しかった。 真暗なヴェランダに出て懐中電燈を空に向けて見ると、底なしの暗い空の奥から、数知れぬ白い粉が後から後からと無限に続いて落ちて来る。
それが大体きまった大きさの螺旋形を描きながら舞って来るのである。 そして大部分のものはキラキラと電燈の光に輝いて、結晶面の完全な発達を知らせてくれる。
何時までも舞い落ちて来る雪を仰いでいると、いつの間にか自分の身体が静かに空へ浮き上がって行くような錯覚が起きてくる。
☆☆
雪博士と異名をとる科学者の解説書とは思えない。
雪は水が氷の結晶となったもの。物質を作っている原子が空間的に或る定まった配列をもって並んだもの。気体の冷却や圧縮による液体化から更に冷却で固体となる。
しかし雪は、低気温で凝縮され、水の状態を飛び越して固体の氷になる昇華作用の産物。湿度100%以上・水が凍らない0℃以下の世界をつくる雪雲の中でおこる不思議♪
空気中の塵や塩の微粒子またはイオンなどが芯となって、それに水蒸気が附着し、雪の最初の状態である氷晶が地上に降って来るまでの状態により多様な結晶に変化する。
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天然が作りだす美麗繊細極まる神秘。なんだかうっとりする。細塵と太陽の合奏による青空が、あまり恋しくなくなる。科学は実に素直であり自然を崇敬するものなのだと思わせる。
「雪は天から送られた手紙である」
これはロマンティックの骨頂かもしれない!などと思う。
友人のお父様は、北国の小中学校で正式な教材として取り上げられている事がほぼ皆無の教育現場を嘆き、とあるメディアでこう話していた。
「いま、理科離れといわれる子どもたちの現状は、自然とすっかり離れてしまい、興味をもてないからではないか。自然に興味をもち、科学的精神をもっていることは、これから生きていくうえで必ず欠かせない要素となるだろう」
☆☆
住みついてみると、北海道の冬は、夏よりもずっと風情がある。風がなくて雪の降る夜は、深閑として、物音もない。外はどこもみな、水鳥のうぶ毛のような新雪に覆い尽くされている。耳をすませば、わずかに聞こえるものは、大空にさらさらとふれ合う雪の音くらいである。
こんな夜は、長火鉢に貝鍋をかけ、銅壺(どうこ)に酒をあたためて、静かで長い夕食をとる。
☆☆
そんな風に季節を迎え、暮らしを営み伝えたいものだ。私はこんな表現に、Dandyismを感じる……。
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