翌朝、くもり空だけど長い時間の運転にはちょうど良い天気だ。
「部長、おはようございます。」
「おはよう。昨夜はよく眠れたようだな」
昨日の朝は寝不足で移動中に仮眠をとらせてもらったのだ。
前の日の夜。ショウタと初めてケンカをして一方的に彼を傷つけてしまった。
朝一番に電話したけど彼には繋がらなかった。
そんな調子で挑んだ大事な商談は、私の資料の作り込みがあまくて大失敗。
散々な1日だった。
高速道路を走ること二時間。
「カナ君、ちょっと休憩させてくれ。」
「わかりました。次のサービスエリアで仮眠とってください」
こんな時、運転免許を取らなかったことを後悔する。
学課は普通にできたけど、運転が無理だったのだ。
まわりの安全を確認しながらハンドルを操作して、もちろん速度も標識のとおりに守らないと。
よくあんな器用なことできるわよね。不器用なわたしには絶対ムリ!
何事もマニュアル通りにいかないのだ。でも運転出来てたら代わってあげられたのよね。
そんなことを思いながら横目で彼をみる。改めてスマートなハンドルさばきにちょっとドキドキした。相変わらず器用な人ね。
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サービスエリアの入り口に差し掛かった瞬間、雪の白さが目に飛び込んできて
眩しさのあまり両手で顔を覆った。
いつもより目が痛くて、涙も止まらない。
「大丈夫か?ちょっと見せてみろ」
「だ、大丈夫です…。いつものことだし、すぐ治りますから。」
そっと目を開けようとした瞬間、まぶたの上に柔らかな温もりが。
「えっ!」一瞬時が止まったように動けなくなる。
「ちょ、ちょっと…リョ、部長!」
今まで必死に保っていた順従な部下の仮面が外れそうになる。
「カナ〜ごめん!だってオマエ無防備すぎ。それに今『リョウ』って呼びそうになっただろ。
まっ、俺はその方がやりやすいけどな。」続7-1
「だってじゃないでしょ。そんなことより早く休んでくださいね。その間にお店
見てきますから。」
「カナ君…。一度、病院で診てもらえよ?心配だから。」続8-1
やさしい言葉を遠くで聞きながらそっと涙を拭った。五年の時が一瞬で引き戻された。
だけどあなたは、もう手の届かない人。守べき人がいるんだから。
お昼過ぎ、なんとか無事に帰社し新たに作戦を練り直す。
「今回の企画、君が中心でやってみろ。オレはサポートにまわるから。」続10-1
「はい?」
「リベンジしたいんだろ?」続11-1
それはそうだけど…
まぁ一度はやってみたいと思ってたしサポートしてくれるなら。
「わかりました。かなり不安ですが、やってみます。」
会議も終わり、家までの道を急ぐ。今日はショウタと大事なデート。
ケンカのおかげ?!彼のやさしさ、大切さを痛いほど思い知った。
年下のせいか、心のどこかで弟のように接してきたのかもしれない。
年上のあたしがガマンしなくちゃっと甘えても来なかった。
「カナさん、ガマンしないでいつでも甘えてくださいね。僕ってそんなに頼りないかなぁ…」続13-1
今思えばショウタはわたしにキチンと話をしてくれていたのに。
でも、甘えるってどうすればいいの?こんなこと友達に聞くのも恥ずかしいし
自分で考えなくちゃ。それともどうして欲しいか直接聞いてみる?
もぉ、こんなに大変なら事務所で企画書作ってた方が楽ね(笑)
よし、早く帰って美味しいお料理作りながら彼を待とう。そして真っ先に謝らなくては。
大人げなかったわたしの言葉がショウタを傷つけたんだから。そのあと、一緒に乾杯しよう。この前彼がプレゼントしてくれた白のヴィンテージワインで。
fin
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