「あつしー、同窓会どうする?」
マミからの電話であまり乗り気じゃなかった高校の同窓会に参加する決心がついた。
「あ、うん。一応顔出しておくかな。」
「じゃあ、あたしも。きっとみんなから質問攻めにあうねwww」
5年ぶりにみんなと会える楽しみもあるが、それ以上に東京で暮らす俺たちへの興味津々の視線が怖い。
二人が育った田舎はほとんど上京する人はいなくて、みんな地元で就職してる。憧れはあるけど住むには怖い街という印象があるんだろう。そんな大都会から帰ってくる二人に注目が集まるのは覚悟の上だ。
当時、俺たちは誰もがうらやむ恋人同士だった。どこへ行くのも何をするのも一緒。ある年の文化祭で恥じらいもなくキスシーンを演じてみんなを驚かせた。その時から君への想いがだんだん強くなって結婚したいと思うようになった。
君はどうなんだ?学生時代の恋愛ごっこだったのか? 恋人がいれば田舎でも刺激のある学校生活が過ごせる、と思ったのかもしれない。その証拠に上京してまもなく、お互い仕事に追われデートも出来ず、すれ違いの日々が続いて別れた。だけどこの大都会でひとりで生きて行くのは怖かったのか、お互いにいつでも駆けつけられる距離に住んでいた。
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君は東京での生活をみんなにどう話す? オシャレなカフェや素敵なお店もたくさんあっていいところよ。とでも話すのか。だけど現実は、毎朝の通勤ラッシュでヘトヘトになり、やっと会社に着いても一息つく暇もなく仕事を頼まれる。帰り着くのは毎日22時を過ぎるし、軽くシャワーを浴びて眠るだけの生活だ。
華やかなのは雑誌やTVの中だけで、休みの日には芝生の上で弁当を食べて昼寝なんて贅沢な話なのだ。石ころ一つ見つけるのも容易ではない世界。毎日のようにけたたましいクラクションが聞こえ、罵声が飛び交う現実。自分たちが生まれ育った環境がいかに平和だったのか思い知らされる。
同窓会の3日前、久しぶりにマミと会う約束をした。
「あつしー、お待たせ。久しぶりだね。で、何時の飛行機にする?」
君の姿を見て思わず笑顔がこぼれる。上京した頃の、少し背伸びした少女のままだったから。
俺は決心した。彼氏はいるのか?仕事の状況は?そんなことはどうでもいい。このまま二人が完全に大都会に染まる前に俺の気持ちを伝えよう。そしてみんなに話すんだ。
「東京は夢を思い起こさせてくれる凄い場所だ」ってことを。
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