「ルカ、寒くない?」
「うん、大丈夫。ありがと。」
あまりカラダが丈夫ではない私をいつも気遣ってくれる颯斗(はやと)。どうしても憧れの浴衣デートがしたいという私のわがままを聞き入れてくれた。
空には満点の星が輝いている。最高のシチュエーション。そんなロマンチックな雰囲気も手伝ってか、彼の横顔が急に大人っぽくて見えてちょっとドキドキする。
いつもは他愛もない話をしながら大笑いしてるのに、今はこの静けさが心地良い。
「俺、高校卒業したら働くわ」
「え、いいの? だって…」
彼にはどうしても叶えたい夢があった。バンドを組んでいて自分が作った曲を大勢の前で演奏すること。幼馴染の賢治(けんじ)がボーカルで彼の声と自分のサックスが映える曲を作り、ある年の文化祭で演奏した。なんとこの曲が生徒たちに大人気になり学校内でもファンが出来るほど。特に女性ファンが多く、彼女の立場としては嬉しいやらヤキモキするわで複雑な気分。
「なんかさ、コワイんだよね。学校っていう小さな世界では通用するけど、広い世界で万人受けするかわからないし不安なんだ。」
「音楽系の学校行かないの? もっと上手くなりたいって、いろんな曲作りたいっていつも言ってたのに…。」
「なんか夢を追い続けて好きな事するのって贅沢な気がして。大人になったら社会に役立つ事しなくちゃな。笑」
翌年
卒業と同時に彼らの音楽活動も終了し、颯斗は地元の会社に就職した。
私もベッドの上での生活が長くなり、いよいよかなと心の準備をしてみる。最期に私が生きていた証を残したい。何か出来ることないかな。
「ふふっ、良い事思いついた♪」
動画投稿サイトを開き、あの時の彼らの演奏動画をアップしてみた。もちろん彼にはナイショで。
「もう一年以上も経つし、みんな忘れてるかもね。」
最高に輝いていた彼らのステージをみんなと共有したくてシェアした。
「これで、良しと♪」
明日は久々にデートだから、早めに休んで体力つけないと。
Sponsered Link
翌朝
「おはよー、颯斗。」
「おー! 今日は顔色がすごくいいな。元気そぉでよかった♪」
「でしょ。だってせっかくのデートだし少しでも可愛くいたいからね。」
それに、昨日アップした動画の再生回数が5千回を超えていたからなのよー。一日で5千ってすごいよね。
コメント欄には「なつかしい〜」「やっぱりこの曲ステキ過ぎる!」など、あの時聴いていた人達
からのメッセージもきていた。彼はまだ気づいてない様子だし、あとで驚かせよう。
今日のデートは大好きな飛行機が見られる空港近くの大きな公園。離発着する機体の種類やフォルムもキレイに見えるからすごく気に入っている。それに今は、遅咲きの桜がわずかに咲いていて心地良い。
「ねぇ、あの曲歌ってよ?」
「はぁ? 急になんだよー」
「ね、おねがぁい♪」
「もぉ、しょーがないな。少しだけな。」
やさしい彼の歌声とかすかな桜の香りに包まれながら、夢の中へと吸い込まれていった。
目を開けると心配そうな彼の顔が覗き込んでいて、口元には呼吸器が取り付けられている。どうやらあのまま意識を失ったらしい。
「ルカ…大丈夫か?」
涙目で見つめる彼の問いに応えられないほど息苦しい。「大丈夫よっ」て安心させたいのに。
「颯斗…動画サイト…見て…」
「コレって?!」
「夢…叶えて…おね…がい…」
良かった。伝えられた。最期に彼の驚いた顔見られた。
天国に行ったら彼が夢を叶える姿見られるかな? えんま様にお願いしてみよう。
三年後
アンコール!アンコール!
満席の場内に無数の歓声が飛び交う中、最愛の人の言葉を思い出す。俺の夢を誰よりも応援してくれていたルカ。
「よし!一緒に行こう。」
彼女の写真をポケットに忍ばせ、賢治が紹介する自分の名前を聞きながらファンの声援に応える。アンコールはもちろん、最期に君が歌ってくれとせがんだ俺も大好きなこの曲。
[Toward a dream〜夢に向かって〜] 作詞作曲 颯斗(sax.) 編曲 賢治(vo.)
現在の再生回数 : 985万 回
fin
ご意見、ご感想などがありましたら、お気軽にお伝えください。
story@kaminomamoru.com
『心霊鑑定士 加賀美零美 第1巻 Kindle版』amazonで販売中!
『海辺の少女(百合の海岸物語) Kindle版』amazonで販売中!
Sponsered Link