華やかな光の輪の中をゆっくりと歩いてみる。近頃よく耳にするジングルベルが聞こえてくる。土曜日なのに、いつもより人通りが少ない。肌を刺す冷たい空気に耐えられなくて、みんな地下街にいるのだろう。だけど私はそれほど寒さを感じない。今日は12月25日、待ちに待ったX’mas本番なのだから。
約束の時間までまだ1時間以上ある。お気に入りの雑貨店でペアのカップを見ていると、ふいに電話の着信音が鳴った。課長からだ。
「カナ君、申し訳ない。トラブルが起きた! 至急来てくれ」
年末休みに入る直前、しかも週末だから仕方がない。慌ててショウタに電話を入れる。
「ショウタ、ごめん。急ぎの仕事入っちゃって、会えなくなったぁ」
「残念ですが仕方ないですね。カナさん、無理しないでくださいね」
ショウタの気遣いが嬉しい。会社に戻ると、課長が一人で作業に追われている。
「おー、カナ君。助けてくれ! 明日使うデータの変更を頼まれた。あと1時間しかない!」
見ると、当初より大幅に変更されている。上得意な取り引き先で、断ることが出来なかったらしい。パソコンが苦手な課長だけでは間に合わないだろう。自分もそんなに得意ではないが、入力だけならなんとかなる。先方も、クリスマス返上で待機しているハズ。
タイムアウト10分前。
「こっちはなんとか終わりました。課長、大丈夫ですか!」
「すまんっ。これだけ頼む!」
10分で3ページ⁉️ 大変だけど、絶対間に合わせる! パソコンに全意識を集中させ、最後の✴️Enterキー✴️を押す。ま、間に合った?
「よっしゃ〜、間に合った!」
「やりましたね〜、課長♪」
思わず手を取り合って喜んだ。もぉ〜、課長ったらかわいすぎるぅ。
「カナ君、ほんとに助かった、ありがとう。せっかくのクリスマスなのに申し訳なかったね」
「課長こそ、おつかれさまでした。こんなクリスマスもありですね」
課長、意外とパソコン出来るんだ。今度からお願いしよう。時計を見ると、既に22時を過ぎている。ショウタに終わった事をメールすると、すぐ着信がきた。
「カナさん、お疲れ様です。今どこですか?」
「会社出るところだよ。今日はごめんね、せっかくのクリスマスだったのに……」
「カナさん、そこにいてくださいね」
15分後、あり得ない事が起きた。
「カ〜ナさん、おつかれさまでした♪」
「えーっ! なんでいるのー! どしてっ?」
家からだと、早くても会社まで30分はかかる。
「カナさんって、終わったらすぐメールくれるでしょ? だから会社からだろうと思って……。まだクリスマスは終わってませんよ。ケーキ買って、二人で食べましょ?」
嬉しすぎるのと疲れ過ぎたせいで、泣きそぉになる。住宅街の歩き慣れた道を二人で歩く。今日は赤や緑の明かりがとてもキレイ。まるで私たちのために灯されたように見える。すると、ショウタが突然立ち止まって人差し指を口にあてた。ん? ……ニャー……ニャー。か細く震えた鳴き声が聞こえてくる。
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✴️心やさしい人に出会えますように✴️と書かれた箱の中に、悲しい目をした仔猫が震えている。捨て猫? ショウタが仔猫を抱き上げて、心配そぉに見つめている。
「こんなに震えて、かわいそうに。お腹も空いてるよね」
「ねぇカナさん、この子心配だから、連れて帰っていいですか? せめて元気になるまで」
「あたしもそう思ってた。ほぉっておけないもんね」
ショウタは嬉しそぉに、自分のコートに仔猫を包み込んだ。
「いいな……」
「ん? どぉしました?」
「なんでもな〜い」
「あっ! この子のご飯、用意しなくちゃ」
「ねぇ、名前も考えなきゃ。いつまでもこの子じゃかわいそう」
「そぉですね。じゃあ、みんなに愛されるように、✴️ラブリー✴️はどぉですか?」
「ぅん♪ いいかも。女の子だし、ピッタリね」
24時間営業のスーパーに寄って、ラブリーのご飯とミルク、それに小さなショートケーキを買った。
「アレ? クリスマスケーキは?」
「だって、ショウタ甘いものニガテじゃない。それに、もぅクリスマス終わるし。これも、今日中に食べなきゃいけないと思う」
「じゃあ、半分こしましょう」
「キャー大変! あと1時間でクリスマスが終わるー💦 早く帰ってパーティーしなくちゃ。走るよ〜」
「ニャ〜」
ラブリーが、ショウタの腕の中で返事をした。
「カナさんが、ラブリーにヤキモチ妬かないように」
そう言って、私の手を握りしめる。そのまま二人で手を繋いで、家までの道を駆け出した。
fin
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