「ねえねえ、みっちゃん」
「なあに、けんちゃん」
「中森明菜さんの歌でさ、『飾りじゃないのよ涙は』って、あるじゃない?」
「あー、井上陽水さんが作詞作曲した歌だよね」
「そうそう。あの歌がちょうどラジオで流れてきてさ、歌詞を聴きながら思ったんだけど、聞いてくれる?」
「いいよ、どうぞ」
「最初にさ、私は泣いた事がないって言うの」
「うん」
「それっておかしいと思わない? 赤ちゃんの時ってみんな、誰でも泣くよね?」
「まあ、確かに」
「もし泣かなかったらさ、お尻叩いて泣かすって言うじゃない?」
「ああ、それね。なんかね、泣かなかったら、逆さまにしてお尻叩くんだってね。肺の中に羊水が溜まってるのを吐き出せるんだって」
「へー、肺の中に羊水がね。井上陽水が羊水を連想させる歌を作るなんて面白いね」
「いやいや、陽水は羊水を連想させる歌を作ったわけじゃないよ。けんちゃんが赤ちゃんのお尻を叩く話をしたから、羊水の話になっちゃっただけだよ」
「いやいやいや、もしかしたら陽水は、この歌を聴いた人が羊水を連想して、井上陽水が羊水の歌を作るなんて面白いじゃん、何て笑ってくれるのを期待したのかもよ」
「うーん、なんか早口言葉みたいになってきたね。それからね、けんちゃん」
「え、なあに?」
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「今ね、ネットで調べたらね、生まれた時に一晩中、泣かなかった人もいるみたいよ」
「へー、そうなんだ。じゃあ、この歌は嘘じゃなかったんだね。陽水さん、ごめんなさい。でもさ」
「え、まだあるの?」
「サビでさ、飾りじゃないのよ涙はハハーン、って言ってるじゃない?」
「そうね、確かに」
「それで次はさ、好きだと言ってるじゃないのホホーなわけよ」
「うんうん」
「これさ、どうしてハとホにしたんだろうね?」
「え?」
「多分さ、涙は、の子音があで、言ってるじゃないの、の子音がおだから、ハとオなんだと思うんだけど。そしたら、カとコとか、サとソとか、タとトとか、ナとノとか、マとモとか、ラとロでも良いわけじゃない?」
「えー? カカーン、ササーン、ココー、ソソーじゃおかしいよ」
「そう、それなんだよね。きっと陽水さんはさ、ハとホがひらめいちゃったんだよね。そこがあの人の天才的なところだと思うんだよ」
「なるほど」
「まあ、そんな話でした」
「了解」
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