「ねえねえ、みっちゃん」
「なあに、けんちゃん」
「鹿児島弁の話、しても良い?」
「良いよ」
「僕が鹿児島に来た最初の頃、笑っちゃった話なんだけどさ」
「何だったっけ?」
「あいとこいとセットってあったでしょ?」
「あー、あったね」
「スーパーでさ、パックのシールに、あいとこいとセットって書いてあってさ」
「うん」
「あれ最初さ、鮎と鯉のセットだと思ったわけよ」
「ああ、魚の鮎と鯉だよね」
「でもさ、中身は魚じゃなかった」
「そうそう。だってあれは、あれとこれとセットって事だから」
「そうなんだよね。後でわかった。あれがあいで、これがこいになっちゃう。だから、あれとこれがあいとこいになるんだよね」
「いやー、あの頃はまだ、鹿児島弁が全然わからなかったから、本当に驚いちゃった」
「私はわかってたから、何を言ってるのかと思っちゃった」
「だよね。言葉の中に、小さいつとか、いとか、んとか、よく出てくるよね。鹿児島って言う時に、かごっまとか、かごいまとか、かごんまとか、いろいろバリエーションがあるから面白い」
「何がが、ないがになっちゃうしね」
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「何と言っても、一番の悩みは桜島の火山灰だよね」
「そうそう、夏は薩摩半島、冬は大隅半島に飛んでくるよね」
「天気予報で、明日の降灰予報があるもんね。風がどちら向きかで変わってくる」
「火山灰はガラスのような鉱物だから、気をつけないといけないのは車だよね」
「そうそう。フロントガラスが見えないからワイパーを動かそうとしたら『やめろ』って言われてびっくりしちゃった。火山灰は粒子が細かくて研磨剤みたいだから、気をつけないと傷がつくからね。風で吹き飛ばすか水で流さないとね。あるいはモップで軽く落とす感じかな」
「灰が降った後は、ガソリンスタンドが行列だよね」
「うん。でも、すぐにまた降るから、洗車しないでそのままって人も多いけどね」
「ぜんそくの人が多いのはさ、灰が肺に入っちゃうからかもね」
「そうそう。外で先生に呼ばれて『はい』って返事をしたら、肺が肺に入って、その灰が肺を傷つけちゃうから、『はい』って返事しない方が肺のためには良いかもね、はい」
「早口言葉好きだね」
「はい、好きです。はい、では今日はここまで」
「了解」
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