「ねえねえ、みっちゃん」
「なあに、けんちゃん」
「みっちゃんはクモが苦手でしょ?」
「クモ? いやいや絶対ダメ。クモだけはダメ」
「クモだけと言いながら、ヤモリも苦手だしね」
「うん、昆虫全般が苦手」
「クモがトイレにいると大騒ぎするしね」
「だって、私が入ろうとするといるんだもん。足が長くてでっかい奴が」
「あれはアシダカグモでさ、良い奴なんだよ」
「良い奴?」
「そう、彼らはゴキブリをやっつけてくれるの」
「ゴキブリを?」
「そうそう。彼らはね、ゴキブリを食べてくれるんだよ」
「そうなの? でもさ、夜中に突然出てくるから驚いちゃう」
「うん、彼らは夜行性だからね。糸で巣を作って待つんじゃなくて、獲物を探し回るタイプだから。みっちゃんが驚くのと同じように、彼らも驚いていると思うよ。臆病な性格らしいし。それにどう見たってさ、クモから見たらみっちゃんの方が怪物に見えると思うよ」
「確かにね」
「彼らは軍曹と呼ばれていてさ、家の中のゴキブリとか、ハエとか、小さなネズミも食べてくれるらしいよ。この家のゴキブリがいなくなったら、また次の家に行くんだって。うちに来るって事はさ、餌になるゴキブリがいるって事なんだよ」
「うーん、ゴキブリは嫌だけど、クモも嫌だな」
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「とにかく、殺したりしないで放置しておこう。それでも気になる時は、そっと外に逃がしてあげよう。この前聞いた話だと、ムカデの中には神様の化身がいるから、殺さないで逃がした方が良いらしいよ」
「ムカデが神様の化身?」
「うん。神の使いみたいな奴がいるらしいね。もしその神の使いのムカデを殺したら、末代まで祟られるらしい」
「えー? それは怖い」
「うん。だから、殺さないで逃がした方が良いらしい。そう言いながら僕もムカデは苦手だから、今まで結構殺してきたけどね。もう末代まで呪われているかも知れない」
「そうだとしたらヤバイね」
「とにかく、クモを殺さないで逃がしてあげたら、後で恩返しに来るかもよ」
「クモの恩返し?」
「そう。私は、あの時あなたに助けていただいたクモです、なんて言ってね。お礼に、何か作ってくれるんじゃない? 鶴は自分の羽で着物を作ったから、クモだったらクモの糸で作るんじゃないかな?」
「クモの糸だったらネバネバしない?」
「うーん、クモの糸で作った手袋があれば、トム・クルーズみたいに壁をよじ登れるかも知れないね。全国の空き巣を生業(なりわい)にしている人に売れるんじゃないかな?」
「それはヤバイんじゃない?」
「確かに」
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