狭い……。ここはどうにも狭いな。窓がないから息苦しい。仕方が無い、しばらくの辛抱だ。もうすぐここから出られるはずだから。
しかしこのカプセルはよく出来ている。長い宇宙の旅を終えて、地球に無事に到着出来た。しかも表面上は、地球上で作られている果物にそっくりだと言う。これなら、地球人に怪しまれる事はないだろう。
今回の俺の仕事は、かなり時間をかけて行なうらしい。長い年月をかけて地球人の信頼を勝ち取り、ミッションを成功させなければならない。そのためにはかなりの精神力が必要だと言うが、忍耐力には自信がある。
地球の言語もマスターしてきた。最初は赤ん坊だというから楽だ。喋らずに泣くだけで良いのだから。地球人の子どもの研究も充分にしてきた。いかに育ての親に愛されるかが重要だ。ミッションを完遂するまでは、立派に育ててもらわないといけない。
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地球上の「あの島」にしか存在しない鉱物。あの鉱物さえ手に入れば、我々の星が抱えている問題を解決する事が出来る。「あの島」には厄介な住人がいるらしいが、その住人たちを撃退する方法も俺には教えられた。
地球上に存在する三つの生き物。彼らと連携して戦う事で、厄介な住人たちを倒す事が出来る。ある生き物は非常に勇敢で、上官の命令に忠実な戦士らしい。またある生き物は、知能が高く動きが俊敏だとか。そして空中戦が得意な奴もいると言うから、かなり有利になるはずだ。
このカプセルの中で、充分にシミュレーションもしてきた。たった一人の孤独なミッションだが、誰かがやらなければならない。この俺は、愛する家族を殺した男に復讐を果たし、死刑囚となった。
いつ死んでも良いと思っていた時に現れた政府高官。このミッションを成功させれば、俺に新しい人生をくれると言う。生きる希望を失くしていた俺に、新しい生きがいを与えてくれた。まずはその恩に報いる事にしよう。
さあ、もうすぐ育ての親との接触地点に到着する。このミッションを成功させるために人類の中から選ばれた一組の夫婦。彼らは長年、子どもに恵まれなかったらしい。こんな俺で良ければ、あんたたちの息子にならせてもらうよ。
ん? どうやら彼女がこのカプセルを回収したらしい。「こんなに大きなのは初めて見た」相当驚いているな。無理もない。通常ならあり得ない大きさなのだから。夫の声も聞こえてくる。いよいよ御対面だな。さあ、一思いにこのカプセルを割ってくれ。大丈夫、刃物を入れられても、中にいる俺は傷つかない仕様になっているから。
よし、来い! いいぞ! 遂にこの狭い空間から解放された。二人とも、果実の中に俺が入っていたから相当驚いているようだな。まずは挨拶代わりに、練習してきた赤ん坊の泣き方をやってみよう。
うんうん、喜んでくれている。二人とも笑顔だ。良かった。二人とも優しそうな人たちだ。よし、俺も最高の笑顔をプレゼントするよ。どうだい? 気に入ってくれたかい?
彼が、俺の地球上での名前を考えてくれたようだ。「桃から生まれたから桃太郎」か。オーケー。気に入ったよ、その名前。これからミッション完遂までの期間、よろしく頼むな。おじいさん、おばあさん!
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