ねえ、眠れないの? 困ったなあ。じゃあさ、眠くなるようにお話してあげるね。
ブレーメンの音楽隊ってお話、知ってるかな? 物語に登場するのは、ロバと犬と猫とニワトリなんだけど、みんな年をとっているの。働けなくなったロバは、死なせようと考えている飼い主からエサをもらえなくなってきて、このままではヤバいと思って逃げ出して、ブレーメンに行こうと考えるんだよね。
途中で犬に出会うんだけど、その犬は猟犬で、年を取って猟が出来なくなってきたので、飼い主から殺されそうになって逃げてきた。ロバは犬に、ブレーメンで音楽隊をやろうと言って一緒に旅を始めるんだけど、今度は猫に出会った。
年老いて歯がすり減ってきた猫は、ネズミを捕れなくなってきたので飼い主に殺されそうになって、やっぱり逃げてきた。ロバに誘われた猫は、彼らと一緒にブレーメンを目指すんだよね。すると途中で声の限りに鳴いているニワトリに出会った。
ニワトリは、飼い主が自分を殺してスープに入れる話を聞いてしまったので、最後に一生懸命に鳴いていたんだよね。ロバから「どこに行ったって死ぬよりはましさ。一緒に音楽をやろう」って誘われたニワトリも、彼らと一緒にブレーメンを目指すんだよね。
さらっと書いているけど、これは本当に悲しい話だよね。ロバも犬も猫もニワトリも、それまで飼い主のために一生懸命に働いてきたのに、役に立たなくなったから殺すなんてね。ビジネスの世界でもよくある話だよね。仕事が出来ないんだけど勤続年数が長い社員がリストラ候補になって、仕事を与えられずにじわじわと自ら辞めるように仕向けていくよね。
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そうして彼らは、ブレーメンを目指すんだけど、一日で着く事は出来なくて、森の中で夜を過ごす事に決めたんだよね。大きな木の下でロバと犬は寝て、猫とニワトリは枝の上に乗ったんだけど、ニワトリが一番上まで上って回りを見渡すと、遠くに明かりが見えたんだよね。
それで、家があると思ってみんなを起こしてそこを目指していったんだ。実はそこは強盗の家だったんだよね。ロバが窓から覗くと、テーブルの上には美味しそうなご馳走が並んでいたので、彼らは強盗を追い払ってしまおうと決めたんだよ。
ロバの上に犬、その上に猫、その上にニワトリが乗って、彼らは一斉に大声で鳴いたんだよ。まるで音楽を奏でるようにね。そして窓ガラスを割って入っていったら、強盗たちは幽霊だと思って、森へ逃げていったんだよね。
その後、彼らはテーブルの上の食べ物を食べて満足して寝ちゃった。そしたら、強盗の親分に命令された子分が、真っ暗になった家の様子を見にきたんだ。ひっそりしている家の中に入って、台所でろうそくに火をつけようとして、ギラギラ光る猫の目が種火だと勘違いしてマッチを近づけたら、猫が強盗の顔に飛びかかってフーッと唸ったり引っ掻いたりしたんだ。
驚いた強盗が裏口に逃げると、そこで寝ていた犬が飛びかかって足を噛んだ。さらに逃げると、今度はロバが後ろ脚で強烈な蹴りをいれたんだよね。最後にニワトリがコケコッコーって鳴いて、強盗は一目散に逃げて、親分に「あの家には恐ろしい魔女やナイフを持った男や黒い怪物もいた」って言って、強盗たちは二度と近づこうとしなかったんだよね。
この家が気に入った彼らは、ずっとこの家に住む事に決めたんだけど、結局、ブレーメンに行く事はなかったんだよ。ブレーメンの音楽隊と言っておきながら、ブレーメンにも行かず、音楽もやっていない。でもこのお話のお陰で、日本人でもブレーメンの事を知るようになったよね。
ちなみにブレーメンは、ドイツで十一番目に大きな都市なんだ。どう? 眠くなった? それは良かった。じゃあ、おやすみなさい。
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