改作・昔話「さるかに合戦」

 ねえ、眠れないの? 困ったなあ。じゃあさ、眠くなるように昔話してあげるね。

 むか~しむかし、柿の種(たね)を拾ったサルが、おいしそうなおにぎりを持ったカニに、ばったりと出会いました。なるほどなるほど、サルが柿の種を拾うのはまあ良いとしても、カニがおにぎりを持っているってどうなんだろう。

 サルは四本足で歩いて、たまに二本足で立っている時もあるから、柿の種を持つのは、そんなに難しい事じゃないと思うけど、カニはどうなんだろうって話だよね。カニは、十本の足と二本のハサミがあって、確かに歩く時にハサミは使わないけど、あのハサミでおにぎりが持てるかなあって疑問に思わない?

 まあ、なんとか持ったとして、あのちっちゃいカニの、さらにちっちゃいハサミで挟(はさ)んだおにぎりなんて、すっごくちっちゃいと思うんだけどね。あんまり大きなおにぎりだと、カニがひっくりかえってしまうと思うんだよ。

 だからまあ、持っていたとしても、直径一センチくらいのものじゃない? それをサルが見つけて食べたいって思うのかなあって事なんだよね。サルとカニではあまりに体格差があるからさ、カニじゃなくて違う生きものを選んだ方が良かったんじゃないかな?

 そうは言っても、なかなかおにぎりを持つ事が出来る生き物っていないよね。それこそ、サルがおにぎりでカニが柿の種を持っていた方がしっくりくるんだけどね。まあとにかく、カニがなんとかしておにぎりを持っていたって事で、納得しておきましょうか。

 サルはおにぎりが欲しかったから、「この柿の種を蒔(ま)けば、毎年おいしい柿の実がなるよ。おにぎりと交換してあげようか?」ってカニに持ちかけて、カニは「いいよ」って言って柿の種を持ち帰って、せっせと水やりをしながら「早く芽を出せ柿の種、出さなきゃハサミでちょん切るぞ」って歌いながら育てていたら、大きな柿の木に柿が実るって話なんだけど。

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 じゃあカニは、どうやって水やりをしたんだろう? じょうろなんか持てないし、その当時にはホースも水道もないだろうから、甲羅(こうら)の上に小さなお椀(わん)かなにかを載(の)せて、よいしょよいしょって一生懸命に運んだとして、一日中行ったり来たりしても、そんなに水は運べなかったんじゃない?

 カニが植物を育てるって話に無理があるよね。カニはだいたい、柿の木に柿の実がなっている場面を見た事があるのかなあ? 前を見る事は出来るかも知れないけど、上を見上げるなんて出来るのかね? やっぱり、登場人物にカニを選んだ時点で問題が多すぎるんだよね。

 まあ、なんとかして柿の木を育てて、柿を実らせたとしましょう。カニは木に登れないから、サルがやってきて「おいらが取ってあげるよ」って言って、木に登って柿を取って、赤くて甘い柿は自分が食べて、カニが「私にも柿をくださいな」と言ったら、青くて固い渋柿をカニに投げつけちゃうんだよね。

 それが当たって大ケガしちゃったカニは、泣きながら家に帰ったと。そして見舞いにきた友だちの臼(うす)とクリとハチが、サルを懲(こ)らしめてやろうって事になって、サルの家で囲炉裏に隠れていたクリがパチンと弾(はじ)けてサルの尻に当たり、「あちち!」ってサルが熱くて水で冷やそうとしたら、水がめに隠れていたハチがチクチク刺して、たまらず外に逃げ出した時に屋根から臼が落ちてきたと。

 それでまあ、散々な目に遭ったサルが改心をして、みんなと仲良しになってめでたしめでたしとなるんだけど。ところが、昔の「さるかに合戦」だと、柿をぶつけられたカニは、ショックで子どもを産んだ後に死んじゃうんだよね。

 そのカニの子どもたちが親の敵(かたき)を討(う)つために、これまたサルの意地悪に困っていた、クリと臼とハチと牛の糞(ふん)と協力して、最終的には臼に潰(つぶ)されたサルは死んでしまうんだよね。カニも死んでサルも死ぬとなると、かなり怖い話になるから、大ケガぐらいがちょうどいいかも。

 芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)が、カニの子どもたちが親の敵(かたき)を討(う)った後の話を短編小説にしているんだけど、その子どもたちは逮捕されて死刑になっちゃうっていう、なんとも後味の悪い話になっちゃってるの。

 やっぱり、大ケガしたけど、最終的にはみんな仲良くなったって話のほうが、子どもの情操教育には良い気がするよね。どう? 眠くなった? それは良かった。じゃあ、おやすみなさい。

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