ねえ、眠れないの? 困ったなあ。じゃあさ、眠くなるようにお話してあげるね。
むか~しむかしある所に、とても愛らしい女の子が、優しい両親と一緒に幸せに暮らしていたんだけどね、ある日お母さんが病気で亡くなっちゃったから、お父さんが新しい女性と再婚したんだって。その新しいお母さんには二人、連れ子の娘がいたんだけど、継母(ままはは)も娘たちもとても意地悪だったんだって。
継母(ままはは)と二人の姉は、女の子をまるで召使いのようにこき使っててね、彼女はいつもカマドの灰にまみれていたので「シンデレラ」と呼ばれるようになったんだって。
灰を英語でシンダー、フランス語ではサンドルになるんだけど、女の子がいつも灰をかぶっていたので「灰かぶり」を意味するシンデレラ、フランス語ではサンドリヨンとなるんだってね。なので、シンデレラを日本語で訳す時に「灰かぶり姫」って言うんだって。
いつも灰をかぶっていたって言うんだけど、どういう生活をしたら灰にまみれるのか、不思議だよね。カマドの灰って言うから、台所で料理の準備をしながら灰をかぶるのかなあ。昔の事だから、台所で働く人はみんな、灰まみれになっていたのかも知れないよね、わかんないけど。
だとしたら、それは働き者の証拠だから素敵な事だよね。朝ドラ「スカーレット」の喜美子は、お父さんがお風呂に入る時にいつも、外から薪をくべていたよ。貧乏だったから、長女の自分が家のために働くのが当たり前だと思ってやってた。その姿を見ているだけで、思わずうるっときちゃうけどね。
それでこの後、お父さんの話が出てこないんだけど、お父さんは生きているのか死んでいるのか気になるね。生きていれば、お父さんがシンデレラの味方になってくれると思うんだけど、この新しい奥さんに毒されちゃったのかなあ。お父さんまで自分の娘をシンデレラって呼んでたら悲しいね。
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本当の名前はエラって言うらしいね。そっか、なるほど、灰を意味するcinder(シンダー)に、本名のella(エラ)がくっついてcinderella(シンデレラ)になったんだ。灰かぶりのエラって事なんだ。へー、そっかあ。
お城の王子様に見初められて結婚して、エラ姫として迎えられたみたいだから良かったよ。これが、王子様にまでシンデレラって呼ばれたら可哀想だもんね。
このお話の元になったと言われる一番古いものが、紀元前一世紀にギリシャの歴史家ストラボンが記録した、ロードピスの話なんだって。
ロードピスは、エジプトの優しいご主人のお屋敷で働いていた女奴隷だったんだけど、肌が白くて外国人の彼女は、周りの女召使いたちからよくいじめられていたんだって。ご主人はある時、ロードピスが上手に踊る姿を見て、美しいバラの飾りがついたサンダルを贈ったんだって。それがまた、他の女召使いたちの嫉妬を買って、さらにいじめられたんだって。
ある時、エジプトの王様ファラオが民衆を招いて都でお祭りを催すんだけど、仕事をたくさん言いつけられたロードピスはそれに行けなかった。仕方なく言われた通りオルモク川で洗濯をしていて、誤ってバラのサンダルを濡らしたので岩の上で乾かしていたら、ハヤブサがくわえて持っていっちゃった。
そのハヤブサが、王様の足元にバラのサンダルを落としたんだって。そのハヤブサがホルス神の使いだと考えた王様は、そのサンダルに合う足の娘を捜し出して結婚すると言い出したんだ。それで、王様の使いがロードピスのところにやってきて、合わせてみたら足がぴったりで、もう片方のサンダルも見つかった。王様は宣言通りに彼女と結婚したんだって。
日本で有名になっているのは、フランスの文学者シャルル・ペローが書いた「サンドリヨン」なんだけど、ガラスの靴を履かせてカボチャの馬車に乗せたのがペローなんだよね。グリム童話の「シンデレラ」は、ペローの影響を強く受けているんだけど、物語としてはより原話に近いと言われているんだって。
グリム童話では、魔法使いが登場しないのでカボチャの馬車も出てこなくて、シンデレラを助けるのは白い鳩。王子が捜しに来た時に、連れ子の姉たちは自らの足をナイフで切るんだけど、ストッキングに血が滲んで見抜かれてしまう。その後の話は残酷すぎてここでは言えないけどね。どう? 眠くなった? それは良かった。じゃあ、おやすみなさい。
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