ねえ、眠れないの? 困ったなあ。じゃあさ、眠くなるように昔話してあげるね。
むかしむかし、寒い北の国に、若者とその父親が住んでいました。へー、寒い北の国か。北と言うくらいだから、一番しっくりくるのは北海道かなあ。でも私としては、青森県あたりの気もするんだよね。日本全体で言えば北海道が一番北なんだけど、本州に限って言えば青森県。
でもさ、調べてみると、室町時代の言い伝えでは、新潟県で雪女を見たって事になっているらしいね。東京から見たら、確かに方角的には、新潟が真北になるから間違ってはいないわけか。もし北海道や青森なら、東北の国って言う表現になっちゃうもんね。
若者と父親という表現もまた、かなりアバウトだよね。この親子は何歳なんだろう? まあ、後々雪女が嫁になるわけだから、二十代なのかなあ。十八ぐらいから、三十までって事にしておこうか。昔は平均寿命が短いから、三十を越えたら若者とは言われなかったかも。
人生五十年と言われていた事を考えると、父親が五十近くで息子は二十五くらいかも。この父親は、息子と二人で狩りに行った時、山の天候が急変して山小屋に避難したところ、白い着物を着た女から白い息を吹きかけられて凍ってしまうわけなんだけど、もうほとんど五十近かったら、寿命と言ってもいいくらいだよね。
この話では、父親が亡くなった後は、若者が一人で暮らす事になっているんだよね。そこに雪女が訪ねてくるんだけど、じゃあ、母親はいないのかなっていう事になっちゃう。お母さんは早くに亡くなってしまったのかなあ。昔は、出産で亡くなる人も多かったみたいだからねえ。そうだとしたら可哀想だよね。
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あるいは、離婚しちゃったのかな。夫に愛想尽かして出て行っちゃったのかな。その離婚の原因が、夫の浮気だったとしたら、出て行ったお母さんが、積年の恨みを晴らすために思わず殺害したって話になるんだけど、それだったら、息子が実の母親の顔を知らないはずがないからおかしいよね。
そうじゃなかったら、その浮気相手だったのかも。「妻と別れたら君と結婚するって言ってたくせに、いつまでたっても結婚してくれないじゃない。私とは遊びだったのね、悔しい~!」って言って、液体窒素かなんか吹きかけて、父親を凍らせたのかも知れないよ。
息子は、父親にそんな愛人がいたなんて知らないから、雪女に見えたのかも。もしかしたら、雪女に見えるように白い着物を着ていたのかもね、その女性は。たぶん息子は、極度の近眼のせいで、ぼんやりとしか女の顔が見えなかったんじゃないかな。それで、「あっ、雪女だ!」と思い込んだのかも。
後々この女性は、若者と結婚して子どもを産むわけだから、そんなにおばさんじゃなかったんだろうね。年上の男性が好きだったのかな? それとも、意外にこの父親が金持ちだったとか? そうだとしたら、「まあ、息子の方でもいいか、意外に結構、男前じゃない?」なんて思って、それで息子は生かしておいたんだろうね。
この事件から一年後に、若者の家に美しい女が訪ねてくるんだけど、目が悪い彼はあの時の女だとはわからなかったんだと思う。まあ、記憶力もあまりなかったかも知れないし。美しいって言ってるけど、彼がそう言ってるだけで、どれほど美しかったのかはわからない。人の好みって千差万別だからね。
実は彼よりも十歳も年上かも知れないよね。しかも財産狙いの女。うぶな彼にとっては初めての女性だっただろうし、男の扱い方には慣れていたのかも。だから、親子共々、すっかりこの女に騙されてしまったのかな。
最終的には、あの山小屋での事件を喋(しゃべ)ってしまったから、「言わないっていう約束を破ったから、もう一緒にいられない」って言って出て行っちゃうんだけど、実はもう、この家の財産を手に入れてたんじゃないかな。「もうあんたは用済み」って感じで、次の獲物を探しに行ったんだよ、きっと。
どう? 眠くなった? それは良かった。じゃあ、おやすみなさい。
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