星に勇気をもらって

 何だか眠れなくて、私は外に飛び出した。田舎に帰ってきて、ずっと塞(ふさ)ぎ込んでいたから、外に出るのは随分と久しぶりだ。ああ、空気が旨い。都会の空気に比べて、ここは本当に空気の味が違う気がする。

 今夜の月は満月。まあるいまあるい満月。なんか、満月を見ているだけで丸をもらった気がする。百点満点、今のままでオッケーだよって、空が私に言っているのかも知れない。

 そう言えば、東京で空を見上げた事があっただろうか。いつも人の背中ばかり見ていたんじゃないだろうか。いつも誰かの視線を気にして、迷惑をかけないように小さくなって生きていたような気がする。満員電車の中で、会社の中で、誰にも迷惑をかけないように、縮こまって生きていた。

 こんな私だから、きっとあの人も嫌になっちゃったんだろう。実家に帰ってきてからも、あの人の事ばかり考えてしまう。

「由美子、いきなりどうしたの?」
「私、会社辞めてきちゃった。しばらくここに居させてね」
「そうか……。まあ、ゆっくり休みなさい」

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 いきなり帰ってきた私を心配する父と母。きっと、仕事が大変で辞めたと思っているんだろう。まあ、それもあるかも知れない。失恋して、心がボロボロになって、仕事をする気力がなくなったのは事実だ。

 ずっと一緒にいられると思っていた。あんなに仲が良かったのに、人の心は突然に変わってしまうものなのか。

 懐かしい公園にやってきた。子どもの頃、母と一緒に遊んだブランコに乗ってみる。きいー、きいーっと鳴る音が、私の心を振動させる。どこか物悲しい音色(ねいろ)が、誰もいない公園に響いている。

 スマートフォンを取り出して、電話帳を開く。スクロールして、ま行にたどり着くと、あの人の名前が載っている。電話をかけてみたら、声が聞けるかも知れない。あの人の写真を見ながら、私の指が震えている。

 あの人はもう、私の番号を消してしまったのだろうか?

 笑顔の写真が、私の胸を切なくさせる。あの笑顔をもう一度見たい。会って話がしたい。もう一度会えば、もしかしたらやり直せるのかも知れない。そんな馬鹿げた妄想を、何回繰り返した事だろう。

 ブランコに乗りながら、空を見上げてみる。手を伸ばせば届きそうな星たち。みんな黙って、私の事を見守っている。そんな静かな沈黙が、親友の優しさのような気がして、私の頬を涙が濡らす。

 あの星たちのおかげで、なんだか頑張れる気がする。私はぎゅっと目を閉じて歯を食いしばった後、「よしっ」と小さく叫んだ。

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