この店に入って半年。水商売は初めてだし、銀座も初めてだったけど、ようやく慣れてきた。ママに初めて会ったのは一年前。
「以上で、鑑定終了です」
「今日はありがとう。あなた、美人ね」
「えっ? 私ですか?」
「そう。お化粧してないのに、これだけの素材。勿体ないわ」
「勿体ない? 何がですか?」
「あなた、一流のホステスになれるわよ」
「ホステスですか?」
「そう。あなた、お金に困ってるでしょ?」
「えっ? ……どうしてわかるんですか?」
「私ね、直感がよく当たるのよ。あなたを一目見た時からわかった。お金に困ってるって。そして、水商売に向いてるってね。きっとあなた、銀座で成功するわよ」
確かに私は、お金に困っていた。元彼に騙されて背負った借金を返済するのに、昼の仕事だけでは足りず、占いの仕事をするようになった。
ママはかなり感受性が強く、直感が働く人。そして、かなりの強運の持ち主。人を見抜く目も持っている。そんな彼女が、私は水商売に向いていると言う。さらには、銀座で成功するとも言ってくれた。
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ママの眼力を信じてみよう。自分を占ってみても、今年、私を助けてくれる人が現れると出ている。そう思って私は、この店で働く事に決めた。
「なぎさちゃん、君は楽しいね。美人でスタイルも良いし、きっとすぐに自分の店を持てるよ」
「あら、門倉さん、お上手でいらっしゃいます。その時は、助けてくださいますか?」
「もちろん、僕に出来る事があれば力になりたいな」
この人は、ママの良い人。大企業の社長の息子。でも最近は、私の事を気にしてくれる。私の事を誘ってくる。一回り以上も上だけど、男らしくて魅力的な人。まだ独身のイケメン。
将来は、大企業の社長になる人。もしこんな人と良い仲になれたら、今までみたいにお金で苦労する事はなくなる。うまくいけば、見染められて社長夫人になる可能性だってある。
でもそれは、うちのママだって考えている事かも知れない。ママの方が彼との付き合いは長いし、年齢だって近い。釣り合いがとれるのは、どう見たってママの方に違いない。
それに、ママには恩義がある。私を夜の世界に引き入れてくれた。初めは何も知らなかったから怖かったけど、慣れてしまえばこの世界の方が私には合っている。
将来、銀座で生きて行くなら、義理を通した方が良いのかしら? でも、こんなチャンスに再び巡り会えるかどうかわからない。玉の輿のチャンスだもの。私、どうしたら良いんだろう。
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