あなたが「また来たい」と言った公園に、私は一人で来ています。今日は天気も良く、家族連れも多いです。真新しい制服を着た子どもたちが見えます。今年新入学の一年生かも知れません。きっと今日は、入学式だったのでしょう。雨が降らなくて本当に良かったです。
初めて二人で来た時の事を、私は今でもはっきりと覚えています。
「みっちゃん、君に見せたい場所があるんだ」
あなたはそう言って、私をここに連れてきてくれました。引っ越してきたばかりで、右も左もわからなかった私に、あなたが一番見せたかった場所がここでした。
見知らぬ土地に来て心細かった私に、あなたはとても親切にしてくれました。最初は、優しい職場の同僚としか思いませんでしたが、あなたと接するたびに心が惹(ひ)かれていきました。後であなたは、私に一目惚れしたんだと教えてくれましたよね。
「みっちゃん、良かったら僕と付き合ってくれませんか?」
あなたが私にそう言ったのは、やはりこの公園でした。あの時は、すぐに返事が出来ませんでしたね。こちらに来る前にひどい失恋をして、男性不信に陥っていた私。とてもとても大好きな人だったのに、彼は心変わりをしてしまった。あなたの事は好きだったけど、本当に信じていいのかわからなかったのです。
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その後もあなたは、以前と変わらずに接してくれましたよね。私の事を気遣って、辛抱強く待ってくれました。どんな時も変わらない優しい笑顔に、私の心は少しずつ癒されていきました。
「こんな私で良かったら、どうぞよろしくお願いします」
ずっとあなたの傍(そば)にいて、ずっとあなたの事を見てきて、信じられる人だと思いました。あなたとなら、きっと幸せになれると思いました。あなたと過ごした日々は、私の心に深く刻まれています。
「僕は君の傍にずっといるからね」
そう言って、優しくキスをしてくれましたね。まるで壊れ物を扱うかのように、優しく抱き寄せてくれました。あなたと合わせた肌の感覚、今も忘れられません。
本当にあなたは、太陽のような人でしたね。あなたがそこにいるだけで、みんなが元気をもらいました。でも、いくら太陽のような人だからって、一人で空に昇っていくなんてひどいじゃないですか。
「君の事を、空からいつも見守っているからね」
最後にあなたはそう言ってくれたけど、やっぱり空からじゃ嫌です。傍にいてほしいです。もう会えないなんて辛いです。ずっと傍にいるって言ったのに。嘘つき、なんて言いたくない。だけど……。
ほら、見てください。白木蓮(はくもくれん)の花が綺麗に咲いています。この花を見るたびに、春の訪れを感じます。白木蓮の花言葉は気高さ。私も白木蓮のように、気高く生きていこうと思います。そんな私の事を、どうか空から見守ってくださいね。私が強く生きられるように、どうかよろしくお願いします。
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