「ねえ、私たちの関係って、もう何年になりますかしらねえ」
「えっ? うーん、そうだねえ。昨日知り合ったみたいに、まだまだ新鮮な気分だよ」
何とまあ、白々しい。あなたと私の関係は、もう五年も続いてるんですよ。いつまで待たせるつもりなの、もう。
「奥様は最近、いかがですか?」
「いやー、相変わらずヒステリックでさあ。ちょっとした事で腹立てるんだよ」
私だって腹立てているんですからね。早く奥さんと別れてくださいよ。私だっていつまでも若くないんだから。
「奥さんとは性格が合わないんじゃないですか?」
「そうなんだよねえ。どうも、水と油なんだよなあ」
水と油だったら、どこまでいってもわかりあえるはずないじゃないですか。もう、早く奥さんと別れちゃってくださいよ。やっぱり、相性って大事なんですから。
私とあなただったら、すごく相性が良いんですよ。あなたの事を満足させられるのは、私だけなんですからね。私だったら、あなたが仕事に専念できるように、しっかり家庭を守る自信があります。
「私と一緒の時はいかがですか?」
「そりゃあもう、君といる時は天国だよ」
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あら、そんなに私が良いんですか? だったら私と心中して、一緒に天国に行きますか? 心中する人たちって、こういう気持ちなのかも知れませんねえ。誰にも渡したくない、あなたは私のものなのよって。
女は感情的な生き物ですからね。私も女ですから、その気持ちよくわかります。めらめらと燃えるような感情。後先考えず、今この瞬間だけに生きるって感じかしら。
こうやって、時々あなたと体を合わせるだけで、愛されている実感がする。この瞬間だけは、あなたは私だけのものなんですもの。
奥さんと別れて私と一緒になるっていう約束、忘れてませんよ。そう言ってもらった時、本当に嬉しかったんですから。
まあ、男の人って、平気で嘘つきますからね。別れる別れるって言いながら別れないって人、世の中にたくさんいますから。
いつも私に調子の良い事言ってても、腹の中では何を考えているかなんてわかりませんからね。私を抱くための口実なのかなあなんて、思ったりもするんですよ。
「今夜は君を寝かさないよ」
あらあら、そんな事言って、すぐに寝ちゃうくせに。子どもみたいな人。だったら私も、今夜は情念の女になりますよ。情念の炎を燃やして、私から離れられなくさせますからね。後悔しても、知りませんよ。
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